第0回 statement food

全感覚祭――GEZANのレーベル十三月が主催するものの価値を再考する野外フェス。GEZAN マヒトゥ・ザ・ピーポーによるオルタナティブな価値の見つけ方。

 

深夜のコンビニ、カップ焼きそばをカゴに投げるように放り込むと、まるで食べ物とは思えない軽い音が鳴り、カゴの中に収まる。
家に帰り、ヤカンで湯を沸かし、乾燥した固形にそそぐとその軽さが実体を持ち始め、麺をすすりあげると胃袋は膨らみ、だが、その分だけ寂しい気持ちになる。生きているのか、生き繋いでいるのか、生き延びているのか。一人暮らし、真夜中の悲しい肉塊は三分で出来上がる。

 

わたしは大阪で音楽を始めた頃、極貧を極め、御堂筋を蹴るその足は酔ってもないのに千鳥足だった。そんな頃、今もにっぽん食堂としてfoodを出しているチーム十三月のあかいぬがマザーテレサのように夜な夜な家に名もなきハイエナのようなバンドマンを招いてはご飯を振舞ってくれて、わたしは茶碗から白米を勢いよくかきこんだ。しばらくすると血がじんわりとめぐるのを感じ、赤血球は各部位でサークルモッシュをしているのがわかる。そう。紛れもなくその瞬間、生きていた。わたしたちはどれだけ気合いだ!なんて言っても、ご飯を食べていないと立っていることもできないのだ。
渋谷の高架下を抜け一本横にそれると家のない人は寒空の下にたくさんいて、ダンボールにくるまる彼らを見るたびに、わたしがここに寝ていてもおかしくないよなと思う。かき消すようなスクランブル交差点の喧騒を背に、お腹が空いてどうにもならなかったあの頃の気分を思い出す。

 

2019年、全感覚祭は大阪を9/21(土)に去年同様で堺のroute26、東京を10/12(土)印旛医大前のHEAVY DUTYという場所で二回開催することにした。東京の会場探しは難航したが、最終的に辿りついたここはもう、必然的だろうと思えるような磁場を持つ場所で、期待してもらっていい。イメージがどんどんと加速していく。
どちらも会場は野外で、入場のゲートはなく、フリーでアーティストがみられる。それに加え、今年はfoodもフリーにしてみようと思っている。わたしたちがつくる街ではご飯も誰でもフリーで食べられる。石原軍団ばりの炊き出しの巨大な鍋から湯気が上がり、誰の何のイベントかもよくわかっていないドヤ街から流れ着いたおっさんが、その列に並びながら、奇天烈な音がする方を見ている。そんな絵を想像したら心臓のあたりがドキドキしてくる。
生き繋ぐではなく、美味しいものを食べて、ちゃんと生きる。その生きた体で全ての感覚を生かして遊ぶ。あの頃、肋骨を浮き上がらせて、千鳥足だったリトルピーポーに耳打ちしたい。未来ではこんなパーティがあるんだ。もう少し頑張れよ。

 

無謀なことを言ってると思うだろうが、自分でも笑ってしまう。
当然、フェスにとってfoodはライフラインで、運営を進める上でチケット代はもちろん、そのfoodの出店料で経費を稼ぐというのは当然の手段になっている。小規模のフェスのテント一つで相場は10万〜15万円。皆の知っているフェスなんかでは100万円の出店料をとるものもあるのだから、フェスを運営する以上、フードの収入源は当然支柱になってくる。企業の金銭的な協賛にあてがあるかといえば、特に現状なくこれを言っているのだから、もう誰がどう言おうが挑戦だし、令和に対しての挑発だ。

 

アーティストにはケータリングがあって、楽屋ではご飯が食べられたりするが、それだけでパフォーマンスが向上したり、一日がなんとなくいい日になったりする。じゃあ、それをお客さんにもやってみたらどうなんだろうというシンプルな試みだ。わたしたちの祭はそのものの価値を自身で決めてくれという意味合いで投げ銭開催している。この時間があなたにとってかけがえのない光を放てばそれ相応の評価をしてほしい。シンプルな話、わたしは信じている。お金がない人はその人自身で考えればいい。ボランティアをするでも、ゴミを拾うでも、その時に何もできなくてもいつか、どんな方法であれ、そのパスがかえってきたらとしたらそれこそ本望だ。それが表現でなくてもいい。答えの出し方はいくらでもあるはずだ。

 

誰もが何かに負けていて、手放しに幸せというわけでもなさそうなのに、どういうわけか、蹴落とし合うあの構造は一体何なのだろう。底の底に落ちたものを見て優越感に浸ることでしか笑えないのだとしたらそれは立派な病気だ。科学者でも医者でも心理学者でもいいから即刻、病名をつけるべきだろう。平成はだんだんと壊れていく30年だった。壊れなければ生きていけなかったから仕方がない?そんなわけないだろう。

 

なぜ今年このタイミングでステイトメントを書いたかというと、早くからフードの協賛の募集をしたかったから。
このコンセプトに興味を持ってくれた全国の野菜やお米を作ってる農家の方、魚、お肉、ありとあらゆる食品、食材に関わるもの、その量を問わず、個人レベルから大募集したい。
さらにショップや料理人、料理が得意な人も募集する。その運営の仕方についてはメールで相談していけたらと思うが、協賛として集まった食材で料理を作ったり、ショップの場合はその食材の費用を十三月が持って、振る舞ってもらうという形になると思う。そのどちらも、パンフレットで紹介できたらと思う。

 

何と言っても予算はかかる。どんだけ小さく見積もっても去年よりも小さな規模になるはずもない。この理想のイメージに何か思うことがあれば、事前募金をお願いします。そして例年通り関わってくれるボランティアも募集します。

 

一つ目のステイトメント・foodはここまで。なんといっても気持ちが高ぶってる。もう誰かに場所や時間を用意してもらうのを待てない。最後に、今回から全感覚祭での十三月の立場をorganizerという言葉を使うのをやめてfacilitatorと呼ぶことにした。このお祭りの中心・主催ではなく、調整役。あくまで食べて、踊るのはあなたで、その主人公はあなた自身。わたしたちはその街に電気を通す導線になる。人が笑うのに権力はいらない。
マヒトゥ・ザ・ピーポー

 

2009年、バンドGEZANを大阪にて結成。作詞作曲をおこないボーカルとして音楽活動開始。うたを軸にしたソロでの活動の他に、青葉市子とのNUUAMMとして複数のアルバムを制作。映画の劇伴やCM音楽も手がけ、また音楽以外の分野では国内外のアーティストを自身のレーベル十三月でリリースや、フリーフェスである「全感覚祭」を主催。中国の写真家Ren Hangのモデルをつとめたりと、独自のレイヤーで時代をまたぎ、カルチャーをつむいでいる。2019年、はじめての小説『銀河で一番静かな革命』(幻冬舎)を出版。GEZANのドキュメンタリー映画「Tribe Called Discord」がSPACE SHOWER FILM配給で全国上映。バンドとしてはFUJI ROCK FESTIVALのWHITE STAGEに出演。2020年、5th ALBUM「狂(KLUE)」をリリース、豊田利晃監督の劇映画「破壊の日」に出演。初のエッセイ集『ひかりぼっち』(イーストプレス)を発売。監督・脚本を務めた映画「i ai」が公開予定。

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