モヤモヤの日々

第4回 洋式トイレ

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

ある時、妻から「トイレは座ってやってほしい」と頼まれた。洋式トイレでの小便は、常に注意はしているものの、やっぱりはみ出してしまうときがある。ひとり暮らしのときは、週1回くらいの頻度で便器を拭けばいいか、と思っていたけど、今はそうはいかない。結局、僕自身が拭く前に、妻が痺れを切らして拭くことが多い。強いストレスになっているという。 

「男は小便を立ってやるもの」という意識もあった。しかし、考えてみれば立ってやる必要を強弁する理屈もないし、なにより妻負担がかかっているのだ。いちいちズボンとトランクスをおろし、座ってやるのは面倒だが、それくらいは辛抱。頑張って、習慣化していった。 

ところが妻が言うには、今でもたまに立ってやっている形跡が残っているらしい。そんなはずはない……反論したが、この前、無意識に立ってやっている自分を発見した。30年以上、続けてきた習慣とは恐ろしいものだ。無意識のうちに、べったりとこびりついている。 

多様な個人を尊重する新時代の言動が求められている。「もう獲得している」と思っている人も油断するなかれ。それまでの「当たり前」を変えるのには、よほどの根気が必要なのだ。 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid