モヤモヤの日々

第58回 3つ目のブルガリアヨーグルト

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

レジ袋が有料化されてずいぶん経った。2020年7月1日に有料化が始まった当初は、ただでさえ新型コロナウイルス拡大による行動変容が求められる時期だったので、買う側も売る側も混乱していた。僕も新型コロナの報道に釘付けになり、有料化を意識していなかった。

有料化が始まった当日、家に閉じこもっていても気が滅入るので、家の模様替えをしようと量販店で買い物をしていた。買い物かごふたつに詰め込んだ商品を会計しようとすると、店員から「袋は何枚にしますか?」と聞かれた。そうか。今日から有料化なのか。う〜ん。しかし、何枚かと聞かれても見当がつかないため、「いくつくらい必要ですか?」と逆に質問してみた。すると、「当店ではお客様に決めていただくことになっています」と店員。

後ろを振り返ると、何人かの列ができていた。大きい袋を4つ、いやそれでは足りないかもしれない。余ってもいいから、とりあえず6袋くらいもらって置いたほうがよさそうだ。

はたして6袋で会計し、袋に商品を入れてみると4つでおさまった。あとの2つは自宅に保管しておくことにした。レジ袋ふたつくらいなら大した出費ではない。しかし、そもそも資源制約、海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化などに対応するためレジ袋を有料化し、過剰な使用を抑制することが目的だったはずだ。なのに、むしろ多めにもらってきてしまった。

これは店員が悪いわけではない。最初の時期は、店舗でも運用の方針がうまく機能していなかっただけだろう。最近では各店とも柔軟に対応してくれることが増えた。とくに枚数を伝えなくても商品が入るだけのレジ袋を用意してくれる店員や、一度、レジ袋に商品をつめてみて、足りなかったら改めてレジ袋を用意し、枚数がわかった段階で会計する店員もいる。

この前、最寄りのコンビニで少しまとまった買い物をした。いつもの店員さんは、一生懸命、ひとつのレジ袋におさめようとしてくれている。しかし、傍から見て限界である。ブルガリアヨーグルトを3つも買いだめした僕が悪いのである。だが、ブルガリアヨーグルトは妻の大好物であり、見つけ次第、買いだめして冷蔵庫から切らさないようにするのが、我が家の暗黙のルールなのだ。押し込まれた容器が、インスタントコーヒーの瓶に変形させられている。無理な体勢によじれてしまったブルガリアヨーグルトの悲鳴が聞こえてくるようだ。

これは、世代が違うとまったくわからないと思うけど、昔、ビールや清涼飲料水の缶が、音楽に合わせて踊るおもちゃがあった(ミュージカンと呼ぶらしい)。変形した容器は、その踊ったときの形をしていた。苦しそうに踊っていた。そこで、どうしても入りきらない3つ目のブルガリアヨーグルトを僕が引き取り、「カバンに入れるので大丈夫です」と伝えた。

なるほど。世の中はよくできている。そういうことだったのか。僕は今までは意識が低すぎた。39歳にもなって恥ずかしい限りだが、その瞬間、生まれて初めてエコバッグを買おうと思ったのであった。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid