モヤモヤの日々

第80回 サークルの夏合宿

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

かわり映えのない日々を過ごしている。少しは外に出て遊びにでも行けばいいのだろうが、新型コロナウイルスの感染拡大が気になるし、執筆や事務作業、家のことなどをやっていると、あっという間に一日が終わってしまう。今週から早寝早起きし、仕事にもっと集中して気晴らしに使える時間を増やそうと昨夜までは思っていたが、起きたら昼前だったので焦ってこの原稿を書いている。かわり映えのない、そしてままならない日々を過ごしている。

地元が同じで、同じ大学の同じ学部を卒業し、今も仲のいいTという友人がいる。仮に、「今まで出会った中で、最も個性的な人は?」と訊かれたら、僕は寸分の迷いなく、Tと答える。Tとは大学のサークルも同じで、夏合宿に行ったある早朝のこと、前夜の酔いを醒まそうと、僕が民宿の庭にある池の前で深呼吸していたところ、Tが突然、現れて池に小石を投げた。ぽちゃんという音とともに、水面に広がる波紋。Tは波紋を見て、「40センチかな」と言い、その場を去っていった。僕はそれ以来、「Tのような個性的な人が生きやすい世の中にしたい」と心の奥底に使命を秘めて生きてきたが、そんな心配はまったくなく、Tのほうが立派で穏やかな生活を送っているうえ、友人が多くて、僕の数十倍は顔が広い。

昼前に起きて、最初に考えたことをそのまま原稿にしてみた。あの池は、本当に40センチだったのかもしれない。問題はなぜTが早朝にその事実を確かめに来たのかだが(あと、本当に波紋から池の深さがわかるのか)、そういう些事を気にしている僕のほうがおかしくて、むしろTこそが「宮崎が生きやすい世の中に」と思い、友人を続けてくれているのかもしれない。そんなことを考えながら、かわり映えのない、そしてままならない日々を過ごしている。

 

Back Number

宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid