モヤモヤの日々

第88回 運転免許

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

昨日まで大雨だったのに、こうも天気がいいと外に出かけたくなってくる。緊急事態宣言下であるため、どうせ叶わない願いだっただろうけど、もし僕が運転免許を持っていたら、妻と赤子と犬を乗せて、自然を満喫できる行楽地までドライブし、澄んだ空気を思いっきり肺に吸い込みたかった。

だが、僕はそもそも運転免許を持っていない。20代は地域紙で記者をしていたため、毎日のように仕事でクルマを運転していたのだが、30代になってアルコール依存症を自覚してからは、自主的に更新するのをやめたという、偉いんだか偉くないんだかわからない理由で失効させてしまったのである。しかし、その判断は今考えても正しかったと思う。若い頃はなにかと運転を頼まれる機会が多いし、そうなったら断る自信も、酒を飲まない自信も当時はまったくなかったからだ。

断酒をして、そろそろ5年目になる。愛犬ニコルを、もっと自然がある場所に連れて行って、めいっぱい遊ばせてあげたい。一度目の緊急事態宣言下で生まれた赤子は、産まれてからずっと「外出自粛モード」で生きている。なるべく遠出は避けて、風景が綺麗なところに連れて行ったりはしているのだが、やっぱり家の中で過ごしがちである。毎日、絵本の読み聞かせをしていて寂しいなと思うのは、赤子は絵本に出てくる自然や動物を、ほとんど見た経験がないことである。

今の状況がこれからどうなるのかは、まだわからない。でも、今の都会暮らしでは味わえない体験を赤子と犬にさせてあげるため、いつかもう一度、運転免許を取得しようかと真剣に考えている。ちなみに、僕は優良ドライバーで、運転するのも好きだった。教習所でも、仮免許の学科試験に落ちた以外は、優秀な生徒だった。僕は、選択問題に弱いのである。試験をつくった人がすごくいじわるで、すべて引っ掛け問題なのではないかと思えてくる。簡単な問題であればあるほど、「いやいや、そんな簡単なはずはない」と深読みしてしまう。「この、明らかに一時停止の標識に見える標識が、一時停止であるはずがない」と裏をかいて誤答する。

もっと人間を信用して、次は一発で合格したい。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid