モヤモヤの日々

第98回 1時間10分のモヤモヤ

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

一昨日は徹夜で、昨日この連載の原稿(「寝てない自慢」)を書いた直後に寝た。そこから約10分の短い覚醒を経て、本日の午前11時に起床し、今、この原稿を書いている。なので、モヤモヤしようにもしようがない。10分の覚醒期間になにをしたかといえば、トイレに行ったのと、犬を撫でたくらいだ。それにしても、ざっと19時間はほぼ連続で寝ていたことになり、39歳にもなってまだそんな体力があったのかと、我ながら驚いている。なるべく起きている間にその体力を発揮できればいいのだが、それができたら僕はもっと偉い人になっている。

ところで、この連載も本日で98回目を迎える。今週の金曜日に100回となることを記念し、翌週の月曜日、101回目を更新した後の21時から、編集担当の吉川浩満さんと一緒にオンラインで無料のトークイベントを開催する。今、「プロポーズ」という言葉を思い浮かべた人は注意してほしい。それは平成3年に流行したドラマであり、若い人には通じない可能性がある。広い世代に通じない冗談はなるべく避けてコラムを書きたいとは思っているけど、意外と難しいものだ。

僕は執筆にずっと「Microsoft Word for Mac」を使っている。ツールバーにある「上書き保存」のアイコンは、いまだにフロッピーディスクのままだ。その頑なさが古くからのユーザーにはありがたい限りではあるものの、若い読者にはフロッピーディスクを見たことがない人もいるのではないか。そういえばこの前、無意識に「レンジでチン」という言葉を使ってしまった。今どき「チン」と鳴る電子レンジは珍しい。うちの電子レンジは「ピー、ピー、ピー」と鳴る。レンジでピーである。

そんなことを考えながら原稿を一時中断して休憩しようと、インスタントコーヒーを飲むためにキッチンの電気ケトルのスイッチを入れた。湯が沸騰するまでの間、ボーっとキッチンを眺めていたら、「サラダ油」が目に飛び込んできた。サラダ油は、いったいなんで「サラダ」なのだろうか。

昨日、原稿を提出して以来、まだ1時間10分しか起きていないが、モヤモヤは尽きぬものである。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid