モヤモヤの日々

第117回 冷房の設定温度

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

暑い日が続くと思ったら、昨日は少し涼しくなった。そして今日はまた暑い。東京では6月8日〜10日までの三日間は最高気温が30℃を超えていた。ここらへんで冷房をつけ始めた人が多いのではないか。我が家はというと、僕が暑いのにも寒いのにも弱いので、5月には早々とつけていた。

環境省は、冷房の設定温度を28℃と推奨している。職場によっては、設定温度の独自ルールがあるケースもある。しかし、人によって体感温度は違っていて、しかもフロアのどこに座っているかによっても暑さ、寒さの感覚が違ってくる。20代の頃に勤めていた会社で、僕は冷房の真下のデスクに座っていた。なんとなく、若い男性は暑がりという先入観が世の中にはあるような気がしているが、僕は暑いのに弱くもありながら、ベースの体質としては生粋の寒がりだという面倒臭いやつなのである。だから、とにかく寒かった。冷房の設定温度に対して発言するには未熟者すぎると勝手に思い込んでいた僕は、これみよがしにカーディガンを羽織り、熱い日本茶まで啜って寒さをアピールしていたものの、どちらかというと暑がりが多い職場だったため環境が改善されることはなかった。

まあ、そんなこと些事だと言われればそうなのかもしれない。しかし、人によってはそれで体調を崩す人もいるし、僕も実際に何度か崩していた。環境省は28℃と言っているけど、冷房の性能や座っている位置、それぞれの体質に合わせて職場の環境を整えたほうがいいと思う。そのほうが仕事の生産性も高まるだろう。今日はすごく建設的なことを書いている。

我が家は、どちらかというと妻が暑がりで、僕が寒がりである。だが、寒がりといっても暑いのも嫌いなので、当然、冷房はつけたい。最近はそんなことは言わないけど、同棲を始めた当初は繁華街に住んでいたため、窓を開けるのも嫌がっていた。僕は外気にも弱いのだ。

とはいえ、一緒に住んでいるうちにいろいろな合意が形成されてきた。今住んでいるマンションのリビングでは、だいたいいつも27℃の弱風に設定している。ちなみに、ニコルは間違いなく暑がりである。だからこれはニコルも含めて考えた合意なのだ。それに加え、ニコルには冷たいクールプレートを買ってあげた。夏場にはその上で横になっている。最近ではなぜかヨガマットの上がお気に入りである。赤子はよくわからないが、極端に暑かったり、寒かったりするのは避けたほうがいいに決まっているので、気をつけるようにしている。

今日は赤子が早朝に起きて騒ぎ出したので、ニコルも含めた家族全員が寝惚け眼をこすりながらリビングに集まり、朝食をとった。寝起き、かつ早朝ということもあって、冷房がやけに寒く感じた。妻にそういうと、「冷房の目の前の席だからね」と言った。そうなのだ。最近、部屋の配置を変えて、僕の席が冷房の目の前になってしまったのだ。妻の一言で席を変更することになった。とても単純なことである。これまでの人生、僕は冷房の何にモヤモヤしていたのだろうか。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid