モヤモヤの日々

第126回 計画の大切さ

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

週末は、仕事と家事と育児、犬と朝顔の世話をした。仕事部屋の片付けはまだ終わっていない。部屋が余計に散らかったわけではないし、何かが後退したわけでもない。つまり現状維持である。

僕はこれまで、時間術や目標達成のための思考法といった類には興味を持ってこなかった。仕事においてはある程度、目標を立ててはいるが、それも30代になってからは、3年、5年、10年計画くらいのゆるいスパンで動いている。達成できたものもあれば、できなかったものもある。これについては検討の余地があるものの、もう少しスピード感があっていいのかもしれない。

週末もできれば現状維持ではなく、仕事部屋を片付けたかったし、赤子や犬を連れて広い公園にでも行きリラックスしたかった。読書をもっとしたかったし、映画も観たかった。もちろん、現状を維持するだけでも大変だ。でも、もっと工夫すれば、時間を有効に使えたのではないか。

妻と赤子や犬とは、常にかけがえのない、交換不可能な、一過性のときを過ごしている。できるだけ家族との親密な時間を増やしたい。今でしか経験できないこともある。仕事においても40代は正念場だ。3月生まれなのでまだ39歳になったばかりの感覚があるけど、周りの友人は続々と40代に足を踏み入れている。今までどおり全力で仕事するのはもちろんのこと、根本的な教養の部分を底上げしなければ、これからは通用しないだろう。日々の仕事や生活で得た実感によって成長しながら、教養を深めるための時間を確保しなければいけない。友人たちとも、もっと話がしたい。

20代は仕事ばかりしていた(あと、アルコール依存症になった)。何かを犠牲にし、何かを見てみないふりして生きるのは、もう御免である。自分の大切なものを踏みにじらないでも生きていくためには、当然いろいろな心がけや環境、制度への働きかけが必要だが、「きちんと計画を立て、時間を有効活用できるようになる」ことも意外と重要なのではないか。少なくとも僕はまだそれを十分にやっていない。

さあ、とは言っても何から手をつけていいのかわからない。文筆業は仕事があるときと、ないときの差が激しい。そういう意味では、この連載は生活のテンポをつくるのにもってこいである。

まずはこの連載を午前中までに提出するルールを徹底しよう。編集の吉川浩満さんも僕も、突発的に体調を崩す可能性があるのだから、そういった一大事に備えてストック原稿も書いておこう(まさに「計画的」である!)。それで……。そうだ。今日はこの原稿を書き終えたら、「日々の計画」を考える時間をつくろう。まずは計画を立てるための時間を計画的につくらなければならない。

自治体に基礎疾患を申請していた、新型コロナウイルスのワクチン接種券が届いた。副反応で熱が出ることもあるらしいから、出てしまった場合を考え、これも接種後の日程を考慮に入れて計画的に予約を取らなければいけない。やるべきことはたくさんある。きちんと計画的に日々を過ごせるのだろうか。とても心許ない気持ちなので、最後に僕の好きな中原中也の「頑是ない歌」(『在りし日の歌』収録)から一節を引用して、今日のコラムを終えたいと思う。

 考へてみれば簡単だ
 畢竟(ひっきょう)意志の問題だ
 なんとかやるより仕方もない
 やりさへすればよいのだと

中也との付き合いはもう30年以上になるが、「わかる。わかるぞ」と、しみじみ感じる。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid