モヤモヤの日々

第151回 ピスタチオ

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

ピスタチオのアイスを食べていた。冷蔵庫に寄りかかりながら、ピスタチオのアイスを食べていた。酒をやめて以来、甘党になった。いや、元の甘党に戻ったと表現するのが正確だろうか。甘いものに目がないうえ、アイスを食べると微熱で火照った体が少しラクになる。

もう体温は無駄に測らないことにしていた。熱があろうと、なかろうと、僕は新型コロナウイルスのワクチンの2回目を接種した直後であり、頭痛や関節痛、倦怠感があるのは確かなのである。堂々と休もうと決めていた。体が熱いからアイスの冷たさが気持ちいい。

ピスタチオといえば酒飲みの間でも有名で、乾き物によく入っているイメージがある。しょっぱくて美味しいのだけど、あまりに量が少なくて、本当に美味しいのか、そうでないのかもよくわからない豆。酒を飲んでいる当時は、それ以上の深追いはしなかった。しかし酒をやめて周りをじっくり見回してみると、ピスタチオはチョコレートになったり、クリームになったり、アイスになったりしている。あの、ちょっとしか食べられなかったしょっぱくて美味しいピスタチオが洋菓子になっている。洋菓子なら一度にたくさんのピスタチオを食べられる。

ピスタチオ、すごい。ピスタチオ、やっぱり美味しい。断酒してピスタチオのすごさに気が付くとは思わなかった。意外なことで世界は広がるものだと、ピスタチオのアイスを食べながら感心し切っていたのが昨夜のことである。

少し熱があったのかもしれない。ワクチン接種3日目、今日までなるべく安静にしていようと思っている。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid