モヤモヤの日々

第170回 ダンス動画

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

最近、妻がダンスの動画をYouTubeで観ながら運動している、と思って訊いてみたら、なんともう3か月も続けているという。凄い。凄すぎる。なんて凄いんだ。僕は妻が踊る姿を眺めながら身震いし、戦慄を覚えた。ボクササイズのパンチやキックの鋭さも、どんどん増してきている気がする。あれならいつだって僕を倒せる。間違いない。僕は妻を素直に尊敬した。

頼もしさの欠片もない夫だが、せめて自分の健康くらいは自分で守らなければいけない。僕も妻に倣ってYouTubeで何かを観ながら運動することにした。動画を探した。しかし、なかなか自分にあった動画が見つからない。そもそもダンス動画は、僕には難しすぎる。階段を二階まで登っただけで息が切れる状態なのに、飛んだり跳ねたり出来たほうがむしろ不思議である。

といっても、優しすぎる振り付けだったり、単調な動きだったりすると飽きそうなので、それはそれで体力とは別の理由で続かなそうだ。最弱なくせに、こういう偉そうなところがあるのが僕の悪い癖である。

それとYouTubeを観ていて気づいたのだけど、エクササイズ系の動画に出てくるYouTuberは、ポジティブな方々が多い。動画の終わりに、「今日も自分が輝くために努力できましたね。綺麗でしたよ!」などと言ったりする。これには、「なるほどなあ」と膝を打った。僕なら「今日も頑張りましたね。明日も努力しましょう!」とか言ってしまいそうだ。それだとアスリート的になりすぎて息が詰まってしまう。楽しく、ポジティブに、ほどほどの強度でできる運動はないものか。

偶然見つけた「自衛隊体操」なるものは、そのネーミングとコンセプトのシンプルさに惹かれてやってみようと思ったのだが、何度か動画を観ているうちに、見た目よりもずっと大変な運動だと気づいて、やる前からやめてしまった。「いっそのこともう、ラジオ体操からはじめてみようかな」とパソコンを操作しながら独り言ちると、「それがいいんじゃない」と後ろにいた妻が言ったのだった。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid