モヤモヤの日々

第179回 赤子の苛立ち

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

我が家のテレビはインターネットにつながっている。ダイアルアップの時代を知っている僕としては、いまだにわかに信じがたいことだが、我が家のテレビはインターネットにつながっている。赤子(1歳3か月)は、そのインターネットにつながったテレビでミュージックビデオを観るのが好きである。国内外のアーティストのパフォーマンスに合わせて身体を揺らしている。音楽とダンスが好きな赤子なのだ。運動が大嫌いな僕の赤子とは思えないほど元気な赤子なのである。

そして同時にテレビのリモコンが好きな赤子でもある。末恐ろしいことに、赤子はテレビをインターネットのアプリにつなげる画面を、表示させることができる。しかし、そこからNetflixなのかHuluなのかYouTubeなのかまでは選択する能力はない。なので、そこでつまずくと、「あー!」と大声を出して、リモコンを差し出してくる。YouTubeを開くところまでやってあげると、赤子はある程度、動画を選択できる。勝手に楽しんで踊っている。

だが、そこはまだ所詮は赤子である。変なボタン(「消音」や「一時停止」など)を押してしまったら操作できなくなってしまい、再び「あー!」と叫びながら駆け寄ってくる。

そんな赤子が最も苛立つ現象がある。それは、インターネットがすぐにつながらないことである。ネットワークの関係で、たまに動画がフリーズしてしまうのだ。小さい丸い図形が回転してローディングしている。読み込んでいる。その画面になると、赤子は再々度、「あー!」と叫びながら駆け寄ってきて、僕を叩き、喚きながら被害を訴えるのである。

つい最近、iPhoneを最新機種に変えたばかりの僕は、そのときインターネットを高速光回線にしないかと営業された。もっとたくさん働いて、赤子の苛立ちを解消してあげたい。

 

Back Number

宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid