モヤモヤの日々

第184回 筋トレ嫌い(2)

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

かわり映えない日常を過ごしているが、1歳4か月になった赤子(息子)の躍進だけは止まらない。赤子が赤子自身を危険にさらす無茶な悪戯をしたとき、赤子を抱えて制するのに現状で80%の力を使っていると先週のコラムで書いた。今週は90%の力を使うようになった。

さて、1歳4か月の赤子を相手に、もう余力10%である。体力をつける必要がある。しかし、僕は筋トレが大嫌いなのである。その理由についてはすでにこの連載で述べたので詳しくは割愛するが、とにもかくにも僕は今、意地でも強くなんてなってやるものか、という謎の使命感に駆り立てられているのだ。その発想を守ることに意固地になっていると言ってもいい。とはいっても目下の課題として、赤子はどうにかしなければならない。どうしたものか。

そこで僕は、筋トレをして自分を鍛える苦行よりも、赤子も僕も楽しめる戦略を選んだのだった。絵本を読み聞かせたり、赤子にたくさん話しかけたりして言語発達を促し、「◯◯君が危なくなる悪戯はやめようね」と説得する、という作戦だ。よく書店のビジネス書棚に「弱者の戦略」と謳われて置いてある「ランチェスター戦略」なるものも、きっとこういうことなんだろうと予想している(たぶん違うと思うので、関連本を読んで確認いただきたい)。

戦略は功を奏するのだろうか。それとも赤子の強さに滅ぼされ、筋トレを余儀なくされるのだろうか。今日も無茶をする赤子を90%の力を使って止めている。いや、92%くらい使っているかもしれない。赤子を抱く、青白くて筋肉がなく骨張っている自分の腕を見ながら、こんなひ弱な僕でも生活していける社会を意地でも守りたいと、たまに思ったりしているのだった。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid