モヤモヤの日々

第186回 モテとは何か

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

最近はまったくなくなったが、若い頃はよく「モテとは何か」という議論を、友人たちとしたものである。結論から言うと僕は、「『あの人が飲み会やイベントごとにいると、なんとなくテンションが高まるんだよね』と不特定多数から思われている人」がモテる人の定義だと思っている。この場合、相手に明確な恋愛感情があるかないかは、大きな問題ではない。

この定義を人に言うと、「それは結構、ハードルが高いよ」と返されたり、「いや、それではモテるとは言えないでしょう」と断じられたり、各々によって反応がまったく異なっていた。それだけ「モテ」とは、定義が曖昧なまま使われている言葉なのである。「恋人がいる人がモテる人」と素朴に思う人もいるし、芸能人でしかあり得ないようなシチュエーションを想定する人もいる。

しかし実際には、「好きな人と一緒にいられる」という状況がベストなのであり、なにも無理してモテようとする必要なんてない。不特定多数にモテたところで、自分が好きな人に好かれなければ仕方ないではないか。だからモテの話なんて、時間の無駄だからやめよう。あるとき、僕は友人にそう言った。友人は真顔で僕を凝視しながら、「『モテる人が好きな人』を好きになった場合はどうするんだ?」と訊いてきた。僕は少しだけ考え、「それはモテる必要があるかもしれないな」と答えたのだった。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid