モヤモヤの日々

第187回 二代目・朝顔観察日記(5)

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

団十郎が散った。弱々しく発芽しつつも、少しずつ育ってきていたのだが、ついに力尽きた。団十郎とは、崩壊した一代目の朝顔たちの無念を晴らすべく、高速道路のパーキングエリアで売っているような素朴な種と一緒に購入したブランド朝顔だ。2021年の空に大輪の大見得を切ることはできなかった。

青色の花を咲かす朝顔「ヘブンリーブルー」も含め、ふたつの種類の朝顔を育て切ることができなかった。種子の品質にはまったく問題がない。単純に種をまくタイミングが遅かったのである。ふたつの立派な朝顔に無理強いをさせてしまい、とても心が痛んでいる。日照時間が少なかったなど悪条件が重なったものの、自然の法則をねじ曲げることはできないのだ。申し訳ないことをしてしまった。

それにしても元気なのが、高速道路のパーキングエリアで売っているような素朴な朝顔である。こちらは順調に育ち、今朝見たら蕾(つぼみ)が少しだけ膨らんでいた。今日の東京は朝から晴れ、日差しも出ている。目一杯に浴びて力を蓄えてほしい。そして大輪の朝顔の花を咲かせてほしい。この朝顔を見ていたら、岸田衿子の詩の一節を、ふと思い出した。

ひとは 群からはなれると
花のそばへやってくる

花は 黙っているだけなのに
水は みなぎっているだけなのに
(岸田衿子「花のかず」より)

今、花を育てている人は、きっと同じ気持ちを抱いているのではないだろうか。

※川口晴美 編『名詩の絵本』(ナツメ社)から引用

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid