モヤモヤの日々

第203回 寒い季節のアイス

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

東京も肌寒い日が増えてきた。アイスが美味しい季節の到来である。なにを言っているんだと思った人は意外と少ないのではないか。そう、冬こそアイスが美味しい季節なのであり、実際に「冬アイス商戦」なるものが存在して、大手デパートがキャンペーンを展開したりもする。

その昔、アイスは暑い季節に食べるものだった。暑い季節に冷えたアイスを食べて涼をとる。焦って食べると頭がキーンと痛む。そこまで含め、アイスは夏の風物詩だった。しかし、人間はどこまでも愚かしい存在で、寒い時期にもアイスを食べたいと思う人たちが出てくる。すると、気温が低いぶん、温かな体内に入ってくるアイスの感触がたまらなく気持ちいいことに気がつく。挙げ句の果てには、炬燵に入ってアイスを食べるなどという愚か者まで現れる。なんという贅沢さだろうか。僕はその矛盾が大好きだ。

同じような現象に、冷房でキンキンに冷やした部屋のなかで布団にくるまって寝る、というものがある。こちらが贅沢な季節は、すでに今年は終わってしまった。どうでもいいことだと思うかもしれないが、これは人類が苦労して獲得した贅沢なのであり、一言で表すならば、つまり「文明」である。その贅沢の背景には、数々の先人たちの努力がある。先人からの贈り物を無駄にしてはならない。

これからも文明は発達していく。たぶん。だから、今では想像もつかないような「贅沢」が、この先も僕のような矛盾した人間たちによって発見されていくだろう。それらはAIにはきっと導き出すことができないような、人間の愚かさから生まれてくるはずだ。そんなところに僕は「人間」を感じるのである。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid