モヤモヤの日々

第230回 書籍化

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

今日は珍しく朝早く目が覚めた。早朝5時30分。外は激しい土砂降りである。と思ったら、8時前くらいから雨がぴたりと止んだ。でも今にもまた降り始めそうな空が広がっている。予報を見ると、昼前には晴れ間がのぞくという。本当だろうか。まるで僕みたいな天気である。

「モヤモヤの日々」の書籍化が正式に決まり、作業を開始することになった。2022年春夏に刊行という、ちょっとモヤモヤとしたスケジュールとなっている。そして、この連載は今年12月30日で終了する。これまで230回も「平日、毎日17時公開」の約束を破らず続けてこられたのは、ひとえに読者のみなさまの応援のおかげである。心から感謝している。

あと30日後に終わると思うと、寂しさも当然ある。なにせ僕は、連載のイメージを編集部に伝えるために必要だった開始時の数回を除き、原稿のストックをためるなんて野暮なまねは一切せず、毎日こうやって書き続けていたのである。提出がギリギリになる日もあり、担当編集の吉川浩満さんには何度もご迷惑をおかけした。そんな日々が幕を閉じるのだから、寂しくないはずがない。

しかし、言葉だけでつくられた世界は、いつか必ず閉じられなければならない。閉じられるからこそ、何度でも出会い直すことができるのだ。僕も読者のみなさまも吉川さんも、何度でもこの日々に戻ってこられる。残りの日々を、僕はより見て、より聴いて、より感じて過ごし、書き記していきたいと思っている。こうなったら、路傍に生えている謎の雑草にまで感性を傾けようと意気込んでいる。こんなふうに書くとなにかのフラグが立ってしまっているようだが、僕はこれから少なくとも倍の歳を重ねていきたい。まだ生きていたのか、と呆れられたいのだ。僕の日々は続いていく。

現在、朝8時30分。吉川さんが約束を破らなければ、あと30分で晶文社から「年末の連載終了と単行本化作業開始のお知らせ」が発表される。しかし、僕は眠いのである。寝たら怒られるだろうか。この連載についてとは特に明記しないまま、昨夜、「明日12月1日の朝9時頃(予定)に、重大発表、告知があります! みなさま、宜しくお願いいたします」と僕はツイートしてしまった。晶文社からのリリースを読めば、「このことだったのか!」とわかるはずだが、僕のツイートだけチェックしている方には不案内になってしまうのではないか。

リリースページの公開URLはすでにわかっている。予告投稿を設定しておこうかな? とも考えた。しかし、僕はいい加減な性格のくせに、変なところで妙に生真面目なのである。やっぱり起きておこう。たぶん。そう思いながら原稿を書いていたら、8時40分になった。あと少し。

みなさんがこの原稿を読むのは、今日の17時以降である。どんな一日だっただろうか。最近は日が落ちるのが早いから、すでに外は真っ暗であろう。家の中やデスクの前で読んでいるかもしれないし、帰宅路の電車の中で読んでいるのかもしれない。きっと今日もなにかにモヤモヤしたはずだ。人間は生きている限り、絶対になにかにモヤモヤする。「モヤモヤ」とは、今を生きることである。だからこの連載が存在する。

とりあえず、ここまで言っておきながら「平日、毎日17時公開」の約束を残りの30日間(平日のみだが)で破ってしまわないよう気をつけたい。いくらなんでも、さすがにそれはモヤモヤさせ過ぎである。

 

Back Number

宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid