scrap book スクラップとは、断片、かけら、そして新聞や雑誌の切り抜きのこと。われらが植草甚一さんも、自分の好きなものを集めて、膨大なスクラップ・ブックを作っていた。ここでは、著者の連載から、対談、編集者の雑文など、本になる前の、言葉の数々をスクラップしていこうと思います。(編集部)
モヤモヤの日々

第190回 犬年齢

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

先日のコラムでも書いたが、愛犬ニコルが3歳になった。ニコルの犬種であるノーフォーク・テリアは「原野の小悪魔」の二つ名で呼ばれている。名前の由来は藤田ニコルさんではなく、二子玉川で引き取ったから。“ニコタマ”から来たので、ニコルと名付けたのである。

そんなニコルが3歳になったわけだが、小型犬の場合、人間の年齢に換算すると28歳なんだそうだ。いわゆる成年期で、元気いっぱいの犬である。しかし、僕はこの「犬年齢」という考え方に、なんとも言えないモヤモヤを抱いてしまう。なぜなら、ニコルはまだ3年しか生きていなく、28歳と言われてもピンと来ないからだ。たしかに、赤子(1歳4か月、息子)が産まれてからは大人になった。少しだけ赤子から目を離すとき、「ちょっとの間、見ておいてね」とニコルに言うと、戻ってくるまで赤子のそばにピタリとくっついていてくれる。

赤子の遊びがエスカレートして、叩かれそうになったり、毛をむしられそうになったりしても怒らずに、さっと身をかわし平然としている。一方、目の前で馬鹿みたいな顔をして寝ているニコルを見ていると、とても28歳なんかには見えない。まだまだ子どものように思える。

3年しか生きていないのに28歳のニコル。人間と犬の時間の感覚は違っていて、僕にとっては3年でも、ニコルにとってはやっぱり28年なのかもしれない。だが、そもそも太陽暦で1年を365日としたのも人間だし、年齢を数えるという概念だって人間がつくり出したものである。当の犬にとっては別にどっちでもいい、というか興味すらない可能性もある。

なんか犬の年齢について考えていたら、ちょっと悲しい気持ちになってきてしまった。僕はニコルが家に来た初日に、「この犬がいなくなったらどうしよう」と思って寝られなくなった人間なのだ。ニコルには、どこまでも長生きしてほしい。ちなみに人間の考えし計算式によると、ニコルは7歳で人間年齢が44歳になり、そのときの僕の年齢(43歳)を超える。ニコルさんになる。

 

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    長野生まれ。個人的な体験と政治的な問題を交差させ、あらゆるクィアネスを少しずつでも掬い上げ提示できる表現をすることをモットーに、イラストレーター、コミック作家として活動しつつ、エッセイなどのテキスト作品や、それらをまとめたジン(zine,個人出版物)の創作を行う。