ポリアモリー編集見習いの憂鬱な備忘録

scrap book スクラップとは、断片、かけら、そして新聞や雑誌の切り抜きのこと。われらが植草甚一さんも、自分の好きなものを集めて、膨大なスクラップ・ブックを作っていた。ここでは、著者の連載から、対談、編集者の雑文など、本になる前の、言葉の数々をスクラップしていこうと思います。(編集部)
モヤモヤの日々

第186回 モテとは何か

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

最近はまったくなくなったが、若い頃はよく「モテとは何か」という議論を、友人たちとしたものである。結論から言うと僕は、「『あの人が飲み会やイベントごとにいると、なんとなくテンションが高まるんだよね』と不特定多数から思われている人」がモテる人の定義だと思っている。この場合、相手に明確な恋愛感情があるかないかは、大きな問題ではない。

この定義を人に言うと、「それは結構、ハードルが高いよ」と返されたり、「いや、それではモテるとは言えないでしょう」と断じられたり、各々によって反応がまったく異なっていた。それだけ「モテ」とは、定義が曖昧なまま使われている言葉なのである。「恋人がいる人がモテる人」と素朴に思う人もいるし、芸能人でしかあり得ないようなシチュエーションを想定する人もいる。

しかし実際には、「好きな人と一緒にいられる」という状況がベストなのであり、なにも無理してモテようとする必要なんてない。不特定多数にモテたところで、自分が好きな人に好かれなければ仕方ないではないか。だからモテの話なんて、時間の無駄だからやめよう。あるとき、僕は友人にそう言った。友人は真顔で僕を凝視しながら、「『モテる人が好きな人』を好きになった場合はどうするんだ?」と訊いてきた。僕は少しだけ考え、「それはモテる必要があるかもしれないな」と答えたのだった。

 

Back Number

    長野生まれ。個人的な体験と政治的な問題を交差させ、あらゆるクィアネスを少しずつでも掬い上げ提示できる表現をすることをモットーに、イラストレーター、コミック作家として活動しつつ、エッセイなどのテキスト作品や、それらをまとめたジン(zine,個人出版物)の創作を行う。