ポリアモリー編集見習いの憂鬱な備忘録

scrap book スクラップとは、断片、かけら、そして新聞や雑誌の切り抜きのこと。われらが植草甚一さんも、自分の好きなものを集めて、膨大なスクラップ・ブックを作っていた。ここでは、著者の連載から、対談、編集者の雑文など、本になる前の、言葉の数々をスクラップしていこうと思います。(編集部)
モヤモヤの日々

第159回 あいつは?

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

赤子に「パパ」と呼ばせたい人の気持ちが、赤子が産まれてからわかった。うちの赤子(息子)は1歳2か月なのだが、「ママ」「マンマ」とは言っても、「パパ」とはなかなか言ってくれない(発声の差の関係なのだろうか)。ましては、「お父さん」なんて言葉を発するのは、まだまだ時間がかかる。

なので、うちも「パパ」と呼ばせようとしたのだけど、なぜかいつも、その存在をひた隠すように小声で「ぱふぁ(パパ?)」とささやく。どうして小声なのかはわからない。しかも最近では、「ぱふぁ(パパ?)」とすら、ぱたりと言わなくなってしまった。寂しい限りである。

一方で、最近の赤子は、なにやらよく喋る。なにを喋っているのかわからないのだけど、とにかくなにかをよく喋っている。たくさん喋るなかで、「パパ」にあたる言葉はあるのか。赤子を数日間じっくり観察してみたところ、どうやら今は「あいちゅあ(あいつは?)」がパパらしい。

立ち上がることができるようになった赤子は、よたよたと歩きながら移動する。おもちゃを一通り散らかし放題して、次第に飽きはじめる。周りにあるものを放り投げだす。それにも飽きたら赤子は言うのだ。「あいちゅあ」。あいつは……ここにおります。いつもあなたをじっくり観察していますよ。

 

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    長野生まれ。個人的な体験と政治的な問題を交差させ、あらゆるクィアネスを少しずつでも掬い上げ提示できる表現をすることをモットーに、イラストレーター、コミック作家として活動しつつ、エッセイなどのテキスト作品や、それらをまとめたジン(zine,個人出版物)の創作を行う。