ポリアモリー編集見習いの憂鬱な備忘録

scrap book スクラップとは、断片、かけら、そして新聞や雑誌の切り抜きのこと。われらが植草甚一さんも、自分の好きなものを集めて、膨大なスクラップ・ブックを作っていた。ここでは、著者の連載から、対談、編集者の雑文など、本になる前の、言葉の数々をスクラップしていこうと思います。(編集部)
モヤモヤの日々

第158回 文化系トークラジオLife

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

先日、「文化系トークラジオLife」のイベントに出演した。「文化系トークラジオLife」は、TBSラジオで偶数月第4日曜日の25時〜28時まで放送されているラジオ番組で、奇数月(原則)は出演者たちが自主的にイベントを開催している。今回は、「真夏のオンラインオフ会」だ。

Lifeは2006年10月から放送されている。番組との出会いがいつだったのか正確には覚えていないが、かなり初期から聴いていたと思う。2005年からの6年間、僕は生まれ育った東京都福生市に本社がある西多摩新聞社に記者として勤めていた。西多摩新聞は1950年創刊の地域紙で、小さい会社ながらも硬派な編集方針をとっていた。在籍した6年間でどれだけの大切なことを学んだかわからない。そのときのことを書き出すと長くなるのでここでは割愛するが、それでもやはり全国規模のマスコミに登場する物書きに若い僕は憧れを抱いていた。

当時、特設だった青梅市役所の駐車場の隅っこ、木が影になって多摩川からの風も吹いてくる絶好のポイントに社用車を止め、シートを倒して寝転がりながらLifeのPodcastを聴いていた。どの回で取り上げられるテーマも面白く、トーク内容にも聴き入った。音源を何度も繰り返し聴いた。Lifeで知った本をたくさん読んだ。でも一方で、僕もその場に座りたい、ライター、物書きとして頑張って、いつか僕も出演する側になりたいとどこかで思っていた。東京出身の僕がこういう言い方をすると怒る人がいるかもしれない。しかし、東京の西の果て、青梅市役所の駐車場で休憩を取りながら聴く僕にとって、赤坂のスタジオは遠く感じた。

6年間勤めた西多摩新聞を辞め、下北沢の編集プロダクションに転職した。「いつでも戻っておいでね」と社長は言っていたけど、そのことを覚えているだろうか。ICレコーダーで録っておけばよかったと、今になって後悔している。そしてその後、いろいろな仕事と出会いに恵まれ、Lifeに出演する側になれたのだから人生は不思議である。そのことについてもいつかまた詳しく。

「真夏のオンラインオフ会」には、番組パーソナリティである鈴木謙介(charlie)さんをはじめ、豪華な出演陣とたくさんのリスナーさんが集まってくれた。前半に「上半期で気になったコンテンツ」について出演者が話す時間があったのだが、(ときにマニアックな)作品についての語りを、こんなにもたくさんの人が熱心に聴いてくれる、という事実を目の当たりにして純粋に感動してしまった。後半はオンライン上で部屋をわけ、各テーマについて語った。出演者も参加者も出入り自由で、活発な交流と議論の場になったと思っている。

個人的には、最後に番組の長谷川裕プロデューサーと犬の話で盛り上がれたのが楽しかった。犬についてあれだけ真剣な目で語る人を、僕の周りでは僕と長谷川さんと、この連載の担当編集である吉川浩満さんしか知らない(けっこういる)。あの目は真剣だった。僕と吉川さん並みの目をしていた。もっと長く語りたいと切に願っている。

「いつかLifeに出たいと思っていたら出演する側になっていた」という話にも通ずると思うのだけど、長谷川プロデューサー、charlieさん、出演者、スタッフのみなさんによる、Lifeのように誰かに語りかけ、誰かに語りかけられる場をつくり続ける営みそのものが、Lifeを特別な場所にしているように感じている。少なくとも僕はそう感じている。最近は出演が減ってしまっているが、またスタジオにうかがう機会があったら、ちょっとだけ昔の自分を思い出してみようと思っている。駐車場の車中で寝転がっている人に向かって、僕は語りかけたい。

 

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    長野生まれ。個人的な体験と政治的な問題を交差させ、あらゆるクィアネスを少しずつでも掬い上げ提示できる表現をすることをモットーに、イラストレーター、コミック作家として活動しつつ、エッセイなどのテキスト作品や、それらをまとめたジン(zine,個人出版物)の創作を行う。