scrap book スクラップとは、断片、かけら、そして新聞や雑誌の切り抜きのこと。われらが植草甚一さんも、自分の好きなものを集めて、膨大なスクラップ・ブックを作っていた。ここでは、著者の連載から、対談、編集者の雑文など、本になる前の、言葉の数々をスクラップしていこうと思います。(編集部)

第4回 ボサボサの山をきりひらく!

世間で言われているように、ほんとうに日本の林業には絶望しかないのでしょうか。多くの山主さんが自分の山を愛せずに放置している状況を憂う著者は、ある日、山主になることを思い立ちました。悪戦苦闘の末、山を手に入れるまで。荒れ果てた山の開墾。自分の山で伐った木をお客様に届けるまでの試行錯誤…。トライ&エラーを繰り返すうちに見えてきたのは、オルタナティブな林業のカタチ。

山は放っておくと荒れてしまう

前回記事の中で、所有者の違いによって山を分類するお話をしました。他方で山は、それらが成り立った過程の違いによって「自然林」や「人工林」に分類することがあります。主に自然の力で成り立ったものが「自然林」であり、それに対して主に木材を生産する目的で人間が作り上げたものが「人工林」です。

林業は木材を生産することが一つの目的ですから、我々林業関係者はどちらかというと人工林を相手に仕事をすることが多いです。日本の中で人工林というと多くの場合、スギやヒノキといった単一の樹種を一斉に植えた山のことを指します。

そのような植林の方法は、均質な木材を大量に生産するためには効率のよいやり方なのですが、ねらい通りの結果を求めるためには、その木々を育てる過程でこまめな手入れを行っていくことが必要不可欠になります。反対に言うと、そのこまめな手入れを怠ると、ほとんどの場合、山は荒廃してしまうのです。

例えば、一般的なスギの人工林の場合、植林の際には高さ数十センチメートルの苗木を2メートルぐらいの等間隔で植えていきます。

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その時点では木の生育にとって障害のない間隔なのですが、木は成長の過程で縦方向に伸びながら横方向にも太り、日光を浴びるために枝葉も広げていきます。

すると木々の間隔は相対的に狭くなり過密状態に向かっていきます。10年もするとお互いの枝葉が干渉するぐらいには混んでくるため、比較的生育の悪い個体を10~20%程度抜き伐り、間隔を広めてやる必要があります。さらに数年たって、残された木々が育ったら再びその中で育ちの悪いものを抜き伐ってやります。このような手入れをこまめに繰り返していくことで、数十年をかけて立派な木々をつくり上げていくのです。聞いたことがある方もいるかもしれませんが、この抜き伐りのことを「間伐(かんばつ)」と言います。

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それなら間伐をしなくてもいいように、初めから広い間隔をとって苗木を植えればいいのでは?という発想が浮かぶ方もいるかもしれません。ところがそのようなやり方ではお客さんの要望に合った質の良い木を作り上げるのは難しいのです。

間伐することを前提にたくさんの木を植えることで、それぞれの木々がお互いに競合し、縦方向に伸びる成長を促し合います。そして比較的生育の悪いものを段階的に落第させていくので、結果的にエリート級の良い木だけが残されていくのです。苗木代が高くつく上に手間もかかりますが、間伐を繰り返してつくった森の木は横方向に太る成長がコントロールされているので、中身が詰まっており鉛筆のようにまっすぐで正しい円柱状になります。一般的にはそのようなものこそ価値が高いとされています。

人工林は多くの場合、最後まで手入れをする前提で木が植えられているので、どこかで手入れを止めてしまうと木々が混みすぎてお互いを殺し合ってしまったり、目的外の植物がはびこってしまったりするのです。

 

イシタカ山の現状

私が買った山の状況を確認するために、改めて山の全体を歩き回ってみますと、やはりスギやヒノキの人工林が大半を占めていました。おそらく、60~70年ほど前に植林されたものと思われますが、これまでに何度も語っているとおり、手入れがされなくなってからかなりの時間がたっており、無惨にも荒れ果てていました。ツルや低木など目的外の植物が旺盛に繁茂して、本来の目的であったスギやヒノキを被圧・侵食している状態で、もはや手の施しようがない手遅れのエリアがあったのは残念でした。

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一方で過去に間伐や、余分な下枝を切り落とす「枝打ち」という作業が施されていたことで、今ある目的外の植物を取り除いて再度少しの間伐をしてあげれば健全な状態に回復することが可能なエリアもあって、そのことはせめてもの救いでした。

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山を整備するための計画を立てる

これからこのイシタカ山をフィールドとして林業経営をやっていくわけですけれど、ただ闇雲に動き始めても徒労に終わってしまうことが出てきそうなので、ある程度の計画を立てて進める必要があります。

イシタカ山は、ひとつのまとまった場所にあるわけではなく、いくつもの道路や沢に分断されているため実は10か所ぐらいの小さなエリアが散らばってできています。地形や、生えている植物の種類もバラバラなので、それぞれのエリアに合わせた整備の計画を立てなくてはなりません。

このことについて、はじめは「効率が悪そうだ…」と考えていましたが、改めて見方を変えてみると、空間をテーマや用途で使い分けることができるので、実験的な要素を多分に含んでいる「イシタカ山」をやっていくのにはむしろ都合が良いのかもしれないと考え直しました。

例えば、①間伐をして太い木を育てるエリア、②広葉樹から薪や木工品の材料を採取するエリア、③きりひらいて新たに植林をするエリア、④ツルや枝葉、竹などを採取するエリア、⑤人を呼んで体験イベントをしたり、休憩スペースに利用したりするエリア、といった具合にゾーニングをすることで限られた土地の中でもより多角的で立体的な林業経営を行うことができるのではないかと考えました。

 

時間と労力をかける

先ほど挙げたものの中でも③は優先的に作業を進めるべきエリアだと考えています。なぜなら植林という行為は施したことの成果が数十年先にやっと実る、先の長いものであるからです。今でこそ「早成樹」という、比較的生育スピードの早い樹種で木材を生産する研究がなされていますが、いずれにしても20~30年はかかってしまうので、自分が生きている間に成果を確認するためには一日も早く木を植え始めた方がいいのは言うまでもありません。ですから、今は植林をするためのエリアをきりひらくことを中心に作業を進めています。毎週末、原野化したボサボサの山にチェンソーと草刈り機を持って繰り出しています。

ひとりの山主になって、自分の山でのんびりとする山仕事ってのは震えるほどたのしいものです。山仕事は大変な危険を伴いますし、普段から林業事業体の従業員として技術を磨いているからできることなので、みなさんに気安くオススメすることができないのは歯がゆくもあります。誰かに頼まれてやっているわけではないので、体力的にも時間的にも本当にのんびりとマイペースを貫いています。気分が乗らなければ無理してやらなくたっていいというスタンスも全然アリなのです。

また、自分の山があれば、普段の仕事で身につけたことをそこで実践したり、新しいことにも積極的にチャレンジしたりできるので、「きこり」としてさらに成長できる環境を手に入れてしまったのかもしれません。

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はじめから分かっていたことですが、ここまでしばらく作業を続けてきて気づいたのは、荒れた山の整備にはやはり途方もない時間と労力がかかるということです。また、こうして時間と労力をかけることで、次第に自分の山に対する愛着が育まれていることにも気づきました。この感覚はけっこう得難く、また尊いものであるような気がしています。

私自身、イシタカ山のこれからがますます楽しみになってきました。というわけで、引き続きコツコツと作業を進めていきたいと思います。

(つづく)