第5回 一本の木の価値を高める方法

世間で言われているように、ほんとうに日本の林業には絶望しかないのでしょうか。多くの山主さんが自分の山を愛せずに放置している状況を憂う著者は、ある日、山主になることを思い立ちました。悪戦苦闘の末、山を手に入れるまで。荒れ果てた山の開墾。自分の山で伐った木をお客様に届けるまでの試行錯誤…。トライ&エラーを繰り返すうちに見えてきたのは、オルタナティブな林業のカタチ。

丸太はどのように取引されているのか

森林組合や林業会社等の伐採業者が山から伐採・搬出した丸太は、製材会社やベニヤ板工場等の加工業者が求めています。取引は伐採業者と加工業者の直接売買によって行われる場合もありますが、一般的には丸太は木材専門の市場を通して取引されています。丸太市場では丸太を大きさや品質ごとに選別してくれるので、伐採業者(売り手)は山で選別をする必要がなくなりますし、加工業者(買い手)は必要な規格のものを必要なだけ求めることができます。丸太市場はそういった大事な機能を果たしています。

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実際に丸太を取引する際には「数え方」の共通言語が必要になってきます。どういうことかというと、例えば、売り手のA社は丸太の数量を「本数」で管理していたとします。ところが買い手のB社は「重さ」で管理していたらどうでしょう。A社とB社が丸太を取引することになってもスムーズに事が運ばないのは想像するに難しくありません。だから、丸太の数量を数えるときの単位はみんなでそろえる必要があるのです。

林業の世界に入るまでは私も本当に知らなかったのですが、木材は体積(㎥)によって数えられています。丸太の体積を求めるには「末口二乗法(すえくちにじょうほう)」が広く使われていて、末口(丸太の細い方の断面)の直径の二乗に丸太の長さをかけて算出します。(厳密に言えば丸太の正確な体積を求める公式にはなりませんが、便宜上この方法を用いるように統一されています。)例えば、末口直径20cm、長さ4mの丸太の体積は、以下のように算出されます。

0.2(m)×0.2(m)×4(m)=0.16(㎥)

この丸太の「1㎥あたりの値段」が仮に1万円であれば、この丸太1本の値段は1600円ということになります。そして、市場での取引ではこの「1㎥あたりの値段」を頼りにしてセリや入札が行われています。

で、実際にどれくらいの値段で丸太が取引されているかといいますと、上で挙げたような規格で製材用の曲がりのない丸太であればスギ・ヒノキで1㎥あたり1万~2万円くらいです。スギよりもヒノキのほうが少し高いです。曲がっていたり、傷がついていたりと、品質の落ちるものはやはり値段も落ちます。最も品質の低いものはチップ用材となり、粉砕されて木質バイオマス発電の燃料や紙の原料になっていきます。

この具体的な値段を聞いて高いと感じるか、安いと感じるかはそれぞれの価値観がありますから絶対的なことは言えませんが、40年ほど前にはスギが1㎥あたり3万〜4万円くらい、ヒノキが7万〜8万円くらいで取引されていた時代があったことを考えると「昔より安くなっている」ということは言えると思います。日本はいま人口が減り、住宅の着工戸数も減っているはずなので今後抜本的な何かが起こらない限り、木材の需要が飛躍的に伸びて、丸太の値段が飛躍的に上がるなんてことはないと考えられています。

 

大規模林業のすごいところ

丸太の値段がざっくりとどれくらいなのかおわかりいただけたでしょうか。お気づきかもしれませんが、丸太は体積や重さあたりの値段が安いという特徴があります。伐ったばかりで水分をたっぷり含んだスギ丸太1㎥の重さは1トン近くにもなりますが、品質の低いチップ用材になれば、産地によっては5000円(1㎥あたり)にも達しないことだってあります。1トンの丸太なんて到底人力では運べず、重機やトラックの力を借りなくてはなりません。そうなると売上原価も多くかかりますから、安い丸太を売って利益をあげるのは簡単なことではないはずです。

安い丸太を売って利益を上げるためには、森林資源が潤沢にあるそこそこ広い面積の山で、効率的に伐採・搬出をする必要があります。高性能林業機械と呼ばれる重機などを使いこなせば丸太を大量かつ効率的に生産することができるので、一本一本の木が多少安くても、利益を上げることができる可能性があります。このような林業の手法は今ある木材の需要に応えたり、日本中に多く存在する整備遅れの山に手入れを行き届かせるためにも重要なものだと思います。

 

加工することで価値が高まる?

では、イシタカ山でもそのような手法を用いて丸太を伐採・搬出するのがいいかというと、とんでもない話だと思います。そもそも、イシタカ山はたったの1ヘクタール足らずの面積しかないので、資源の量がほんとうに限られていますから大量に木を伐採したらすぐになくなってしまいます。それに、ひとつのまとまった場所に山があるわけではないので(「山を整備するための計画を立てる」)大きな重機を入れたところで地獄のように効率が悪くなるのは目に見えています。したがって、イシタカ山では全く別の方法を考え出し、選択していくほかありません。

丸太を丸太の状態で売るのは、大量かつ効率的に生産できる大規模林業の担当領域なので、私のようなものが絶対に目指すべきことではありません。私がやってみたい「小さな林業」は丸太を自分で加工し付加価値をのせることで、木材の「体積あたりの値段」を高くしていくことになります。少し前に、その手応えを体感する機会がありました。

ある方から「木のお札」の制作依頼があり、在庫していた角材を丸ノコでザクザク刻んで納めさせていただきました。木のお札は500枚の注文があったのに対し、1枚80円で買っていただいたので、4万円の売上となりました。制作に要した時間は10時間くらい。そのときは道具類も全然充実しておりませんでしたし、私自身も木工に精通していなかったので非常に効率が悪かったのですが、それでもデッドストックとしてスペースを食っていただけの角材が、時間と手間をかけた事によって現金4万円に替わったのです。

仮に1㎥あたり1万円の丸太を売って4万円を売り上げるためには単純に4㎥の丸太が必要になります。それはだいたい中型トラック1台分の量となるのに対して、私がそのとき納めた4万円分の木のお札はせいぜいティッシュ箱3つ分ぐらいの量でした。これはまさしく、木材を加工することで体積あたりの値段を高くすることに成功したと言うことができます。この経験から、私がやりたい「小さな林業」への手応えを感じないわけにはいきませんでした。それから、自分には木材を加工するための工房が絶対に必要であると確信しました。


 

林業家が手がける木工の強み

限られたイシタカ山の資源の価値を最大化するためには、どう考えても木を加工する、という行程が必要になってきます。いわゆる木工です。木材は金属や石などと比べても断然加工しやすく、材料も手に入りやすいのでそれを生業にしている方も多いことと思います。また日本は言わずとしれた森林大国。潤沢にある山の木を加工して利用しやすくし、生活の中に取り入れるというのは太古の昔から普通に行われてきたことでしょう。私も山を買っちゃったんだから、是非ともそれをやりたいと、やらなければならないと勇み立ちました。

しかし木材を加工するためには専用の道具が色々と必要になります。のこぎりや曲尺(かねじゃく)ならすでに持っていましたが、やはりできることの幅を広げるために電動工具がほしくなります。「木のお札4万円事件」が起きてからというもの、木工に関する道具に投資をすることは私にとって全然辛いことではなくなったのですが、電動工具はいかんせん音がうるさいです。それに木くずがめちゃくちゃ舞う。ご近所さんや家族への迷惑を考えると今自分が生活している家にそんな設備を導入することは絶対に不可能でした。

毎日のように電動工具を動かしてもご近所迷惑にならないような場所はないものかと、血まなこで辺りを探し回った結果、なんと運良く条件に合う場所を借りることができたのです! その名も、秘密の工房「レイア」。陶芸をやっている私の兄と共同でその場所を使わせてもらえることになりました。

自分の工房を構えることができたので、必要だった自動カンナや手押しカンナ等の電動工具を注文して早速運用しています。人力でどんなに頑張ってもできないことが一瞬にしてできてしまうので、やはり道具は偉大です。道具は力である、と思います。

これで、木工を進めていくのに必要な条件はある程度整いました。しかし、いくら立派な道具を手に入れたところで、作品をつくる本人に腕がなければどうあがいてもクオリティの高いものをつくることはできません。私自身、木工の経験などまるっきりなかったので、これからきちんと腕を磨いていく必要があります。今の私は、自分が作りたいものを考える以前の段階なので、とにかく些細なものでも作りまくる作業が必要です。まずは道具の使い方を覚え、きれいな板を作るところからはじめて、やがて精巧な作品も作れるようになっていきたいです。

私は、現状ではまだ大した作品を作ることができません。しかし、ない腕を使ってちくちくと作業をしているとき、ふと私がやる木工にはある強みがあることに気が付きました。それは、自分で山を買って、そこから自分で伐ってきた木を使っていることです。木工業界広しといえど、そんなことをやっている作家さんは多くないでしょう。そういう意味では、「山の見える木工」をやっているわけですが、そこんところの強みは是非とも活かしていく必要があると考えています。

・伐った木を高く売るためには加工をする必要がある。
 ・自分で伐った木を使う木工には強みがある。

こうしてあらためて書き出してみると、林業家が木工をやるってのはめちゃくちゃに有利です。イシタカ山の木の価値を最大化するために始めたことでしたが、図らずもそんな有利なポジションに立っていたことに気がついたので、あとはやるだけだよな…と思います。

(つづく)
 

28歳のきこり斧/山主。神奈川県の水源地域、山北町で取得したボサ山を自力で整備しながら副業自立型の小さな林業を実践・発信していきます。林業、気安くオススメはしませんが格好いいところ見せたいとは思います。

第4回 ボサボサの山をきりひらく!

世間で言われているように、ほんとうに日本の林業には絶望しかないのでしょうか。多くの山主さんが自分の山を愛せずに放置している状況を憂う著者は、ある日、山主になることを思い立ちました。悪戦苦闘の末、山を手に入れるまで。荒れ果てた山の開墾。自分の山で伐った木をお客様に届けるまでの試行錯誤…。トライ&エラーを繰り返すうちに見えてきたのは、オルタナティブな林業のカタチ。

山は放っておくと荒れてしまう

前回記事の中で、所有者の違いによって山を分類するお話をしました。他方で山は、それらが成り立った過程の違いによって「自然林」や「人工林」に分類することがあります。主に自然の力で成り立ったものが「自然林」であり、それに対して主に木材を生産する目的で人間が作り上げたものが「人工林」です。

林業は木材を生産することが一つの目的ですから、我々林業関係者はどちらかというと人工林を相手に仕事をすることが多いです。日本の中で人工林というと多くの場合、スギやヒノキといった単一の樹種を一斉に植えた山のことを指します。

そのような植林の方法は、均質な木材を大量に生産するためには効率のよいやり方なのですが、ねらい通りの結果を求めるためには、その木々を育てる過程でこまめな手入れを行っていくことが必要不可欠になります。反対に言うと、そのこまめな手入れを怠ると、ほとんどの場合、山は荒廃してしまうのです。

例えば、一般的なスギの人工林の場合、植林の際には高さ数十センチメートルの苗木を2メートルぐらいの等間隔で植えていきます。

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その時点では木の生育にとって障害のない間隔なのですが、木は成長の過程で縦方向に伸びながら横方向にも太り、日光を浴びるために枝葉も広げていきます。

すると木々の間隔は相対的に狭くなり過密状態に向かっていきます。10年もするとお互いの枝葉が干渉するぐらいには混んでくるため、比較的生育の悪い個体を10~20%程度抜き伐り、間隔を広めてやる必要があります。さらに数年たって、残された木々が育ったら再びその中で育ちの悪いものを抜き伐ってやります。このような手入れをこまめに繰り返していくことで、数十年をかけて立派な木々をつくり上げていくのです。聞いたことがある方もいるかもしれませんが、この抜き伐りのことを「間伐(かんばつ)」と言います。

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それなら間伐をしなくてもいいように、初めから広い間隔をとって苗木を植えればいいのでは?という発想が浮かぶ方もいるかもしれません。ところがそのようなやり方ではお客さんの要望に合った質の良い木を作り上げるのは難しいのです。

間伐することを前提にたくさんの木を植えることで、それぞれの木々がお互いに競合し、縦方向に伸びる成長を促し合います。そして比較的生育の悪いものを段階的に落第させていくので、結果的にエリート級の良い木だけが残されていくのです。苗木代が高くつく上に手間もかかりますが、間伐を繰り返してつくった森の木は横方向に太る成長がコントロールされているので、中身が詰まっており鉛筆のようにまっすぐで正しい円柱状になります。一般的にはそのようなものこそ価値が高いとされています。

人工林は多くの場合、最後まで手入れをする前提で木が植えられているので、どこかで手入れを止めてしまうと木々が混みすぎてお互いを殺し合ってしまったり、目的外の植物がはびこってしまったりするのです。

 

イシタカ山の現状

私が買った山の状況を確認するために、改めて山の全体を歩き回ってみますと、やはりスギやヒノキの人工林が大半を占めていました。おそらく、60~70年ほど前に植林されたものと思われますが、これまでに何度も語っているとおり、手入れがされなくなってからかなりの時間がたっており、無惨にも荒れ果てていました。ツルや低木など目的外の植物が旺盛に繁茂して、本来の目的であったスギやヒノキを被圧・侵食している状態で、もはや手の施しようがない手遅れのエリアがあったのは残念でした。

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一方で過去に間伐や、余分な下枝を切り落とす「枝打ち」という作業が施されていたことで、今ある目的外の植物を取り除いて再度少しの間伐をしてあげれば健全な状態に回復することが可能なエリアもあって、そのことはせめてもの救いでした。

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山を整備するための計画を立てる

これからこのイシタカ山をフィールドとして林業経営をやっていくわけですけれど、ただ闇雲に動き始めても徒労に終わってしまうことが出てきそうなので、ある程度の計画を立てて進める必要があります。

イシタカ山は、ひとつのまとまった場所にあるわけではなく、いくつもの道路や沢に分断されているため実は10か所ぐらいの小さなエリアが散らばってできています。地形や、生えている植物の種類もバラバラなので、それぞれのエリアに合わせた整備の計画を立てなくてはなりません。

このことについて、はじめは「効率が悪そうだ…」と考えていましたが、改めて見方を変えてみると、空間をテーマや用途で使い分けることができるので、実験的な要素を多分に含んでいる「イシタカ山」をやっていくのにはむしろ都合が良いのかもしれないと考え直しました。

例えば、①間伐をして太い木を育てるエリア、②広葉樹から薪や木工品の材料を採取するエリア、③きりひらいて新たに植林をするエリア、④ツルや枝葉、竹などを採取するエリア、⑤人を呼んで体験イベントをしたり、休憩スペースに利用したりするエリア、といった具合にゾーニングをすることで限られた土地の中でもより多角的で立体的な林業経営を行うことができるのではないかと考えました。

 

時間と労力をかける

先ほど挙げたものの中でも③は優先的に作業を進めるべきエリアだと考えています。なぜなら植林という行為は施したことの成果が数十年先にやっと実る、先の長いものであるからです。今でこそ「早成樹」という、比較的生育スピードの早い樹種で木材を生産する研究がなされていますが、いずれにしても20~30年はかかってしまうので、自分が生きている間に成果を確認するためには一日も早く木を植え始めた方がいいのは言うまでもありません。ですから、今は植林をするためのエリアをきりひらくことを中心に作業を進めています。毎週末、原野化したボサボサの山にチェンソーと草刈り機を持って繰り出しています。

ひとりの山主になって、自分の山でのんびりとする山仕事ってのは震えるほどたのしいものです。山仕事は大変な危険を伴いますし、普段から林業事業体の従業員として技術を磨いているからできることなので、みなさんに気安くオススメすることができないのは歯がゆくもあります。誰かに頼まれてやっているわけではないので、体力的にも時間的にも本当にのんびりとマイペースを貫いています。気分が乗らなければ無理してやらなくたっていいというスタンスも全然アリなのです。

また、自分の山があれば、普段の仕事で身につけたことをそこで実践したり、新しいことにも積極的にチャレンジしたりできるので、「きこり」としてさらに成長できる環境を手に入れてしまったのかもしれません。

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はじめから分かっていたことですが、ここまでしばらく作業を続けてきて気づいたのは、荒れた山の整備にはやはり途方もない時間と労力がかかるということです。また、こうして時間と労力をかけることで、次第に自分の山に対する愛着が育まれていることにも気づきました。この感覚はけっこう得難く、また尊いものであるような気がしています。

私自身、イシタカ山のこれからがますます楽しみになってきました。というわけで、引き続きコツコツと作業を進めていきたいと思います。

(つづく)
 

28歳のきこり斧/山主。神奈川県の水源地域、山北町で取得したボサ山を自力で整備しながら副業自立型の小さな林業を実践・発信していきます。林業、気安くオススメはしませんが格好いいところ見せたいとは思います。