80才でも入れます。持病や通院歴のある方も入れます。
毎月4500円で、生涯この保険料は変わりません。
最近、テレビで宣伝されている保険商品のキャッチフレーズにはそういうものが多いと思いませんか?
毎年のようにシニア向けの公的医療制度は自己負担がふえていくし、自分の身体も少しずつガタが来ているのを意識していたときにそういうコマーシャルを見ると敏感になりますよね。
特に若いころに、十分な生命保険に入らないままで来てしまったり、良くあるケースは生命保険は夫中心のもので、良く見たら妻自身のものがほとんどないことに、65才をすぎて気がついたりで、大丈夫かしら? と不安が増すものです。
テレビのコマーシャルは、一般の消費者のような雰囲気を醸し出したタレントさんがこんなコメントを言うものです。
「もう年齢なので入れないと思ってました」
「子どもに迷惑をかけないように、せめて、お葬式のお金くらいは残したいと思って入りました」
高齢で、病歴もあっても、毎月の掛け金が安い生命保険に入れる。
嬉しいですね。生命保険に入っていれば困ったときにも助けになってくれるからです。
これらの商品は、もちろん、生命保険です。
問題は、保険に入ろうと思う人が、こういう時にお金が出ればいいなと思っているときと、入った生命保険がお金を払ってくれる条件が重なってないことが多いことなんです。
困っているときにお金を出してくれるのが生命保険でしょう?
違います。保険の契約書に書かれた細かい条件を満たした、困っているときにお金を出してくれるのです。
テレビのコマーシャルのイメージだけで飛びつくと、そこに大きな溝が産まれてしまうのです。
では、若いときにさえ読まなかった生命保険契約の約款にあるあの細かな文字を、老眼鏡時代になって果してどれだけの人が読むでしょうか?また、理解し納得して入るのでしょうか?
生命保険といってもいろいろなのです。
はっきり申し上げれば、お手軽な生命保険というものは、入れることは入れても、それで大した保障などあるわけがない、と思っていた方が健全です。
そこに保険に入っているという安心感はあるかもしれないが、それは、価格に見合った保障であり、保険によって目前に迫った生きものとして受け入れなければならない哀しい現実を避けることはできないものです、
もう一度申し上げます。こういった保険商品は保険に入る安心感がメインディッシュであり、金銭的な支えは期待ほどはないものなのです。
そりゃあ当り前です。だれもかれもが保険のお世話になる年齢なのです。そういう年齢の人が集まってお金を出して成立している保険なのです。
具体的な例を紹介しましょう。
保険料が手軽なある通販系保険会社の場合。
77歳で女性が入る生命保険は毎月の保険料は約3400円。亡くなった時の保障は100万円。
つまり、年に40800円払って、77歳で亡くなれば100万円もらえるということです。
77歳の女性が77歳で亡くなる可能性はどのくらいでしょうか? 答えは1.5パーセントです。
200人に3人の方が亡くなる。ほとんど亡くならないのです。100万円もらうのに4万円払うのは合理的でしょうか?
また、この保険には、入院した時の保障はつきません。もちろん入ることはできます。1日5000円で60日まで出る入院給付金、手術の保障もあります。その毎月の保険料は7700円です。合計で1万1100円。
60日の入院、1日5000円ですから、最大でもらえて30万円です。手術見舞金などで10万円でても40万円。それに、毎月7700円で9万2400円。つまり、払ったお金の最大4倍までしかもらえない。ざっくり申し上げて77歳の女性の4人に1人が2ヶ月も入院する大病をするわけがありません。
この保険の保険料は毎年値上がりしていきます。ちなみに、翌年、78歳になると死亡保険は3800円、入院保障は8100円で1万1900円となります。毎年値上がりしていくだけではない。本当に必要な90歳以降は続けることはできません。それまで払った保険料は掛け捨てなので戻ってもきません。つまり、平均寿命より長生きしたら1円にもならない。90歳になったら、また心配しなくてはならないのです。
77歳で加入して病院のお世話になったら、78歳のときにはもう入れません。病歴がつくからです。少なくとも同じ条件では入れないという代物なのです。
年老いてから民間の生命保険に入って、自分の持つ金銭的な環境よりもびっくりするほど多くの経済的な利益を受けようと思うのは少し考えが甘すぎるようです。年齢を重ねれば誰だって医療や介護のサービスを受けることが多くなる。1000人に1人だけが運が悪く保険のお世話になるというのであれば、払った保険料の10倍以上のお金をもらえる保険もあるでしょう。また、90歳以降のように、2人に1人、3人に1人がそのサービスが必要となる年代のものを、同じ年代の加入者で支えるとしたら、驚くほどお金がもらえるような保険はありえないものです。むしろ、保険者から集めた保険料から保険会社の取り分を考えると、契約者に廻すお金は限られたものになるはずなのです。
そういう厳しい現実を私の先輩に話すと、たいていは顔を暗くして、じゃあどうすればいいの? と言われます。
私はただ家族に迷惑をかけたくないだけなのに。
毎月1万円の保険料は貯蓄すれば毎年12万円。翌年はすでに24万円くらいになります。上記の生命保険の入院給付金は60日分で30万円である。ざっくり申し上げて2年半以内に病院のお世話にならないのであれば、貯蓄しておいた方が良いはずですね。77歳から90歳まで13年間貯めておけば利息ゼロでも156万円。保険に入れなくなった90歳過ぎ、本当にお金が必要なときにお金が使えるわけです。
貯蓄はいざという時には医療サービスに使うこともできるし、健康で元気ならちょっとした楽しみ、例えば旅行に使えます。貯蓄というのは、何にでも使える。困った時には困った問題に、そうでないなら楽しい事がらに使えるのです。
先に申し上げたように、生命保険は、生命保険に入っているという安心感はあるのですが、例えばお金を給付してもらうときにはいろいろと手続きをする必要や、自分じゃもらえると思っていたお金が契約内容での免責事項(保険会社の支払い義務がない)ことになっていると余計なストレスになるものです。
私はそんなよく分からない安心感のために病気やケガ、もしくは、あの世に召されなくては払われないお金のために使うよりは、スポーツクラブに通うとか、病気の早期発見のための人間ドックを受けるとか、健康増進のためのサプリメントに当てるといったことにもっとお金を廻すほうがポジティブだと思います。
もしかしたら、私が知らない、ものすごくお得なシニア向けの生命保険があるのかもしれません。
そうだとしても、困った時のための保険にお金を使うより、困ったことができるだけ起きないようにするためにお金を使う、健康を確保するために使う方がいいと思うのです。
そして、生命保険金が支払われるときは、たいてい哀しい辛いときです。それは経済的な支えの一部にはなるかもしれませんが、保険では哀しい辛いことを先延ばしすることはできません。先延ばししたいのであれば、もっと日々の生活の健康のために気配りし、必要なお金を使うことです。
もうひとつ気になるのが、「せめてお葬式のお金くらいは残したい」という考えです。
子どもたちに余計な負担をかけさせたくないという気持ちからの考えだと思います。しかし、そういう想いがあるのであれば、気を使うべきことはほかにありのかもしれません。
それは、幸せに楽しく、時には自分の分相応以上に贅沢に生きるということです。この世の人生で与えられた時間を全うする。完全燃焼。子どもや孫のためにガマンなどしないことです。美味しいものを食べ、いろんなところに出かけ、自分のしたいことをして、多くの友人知人といい時間を過ごす。そのようにして人生を生ききってくれれば、残された人はこう思うはずです。
「ああ、私の父は、母は、楽しく人生を過ごしてくれた。若いころは苦労したかもしれないが、晩年は本当に楽しそうだった」。そう笑顔で思ってくれるでしょう。
ボランティアで社会の困った人たちのために時間を使うのも、将棋や囲碁、テニスなどをして汗をかくのもいいです。
小説やエッセイを書いていろんな賞に応募してみるのもいいものです。
こういう話をすると、また多くの人がそんなことはできない。無理よという。その理由のひとつが経済的な余裕がないということからです。年金はほとんど日々の生活費に消えていく。楽しいことに廻す余裕などない。こう言われる、
確かにそうかもしれません。それでも、もう一度、皆さんの廻りを見回して頂きたいのです。
多くの人にやってもらいたいこと、自分と子どもや孫のためにするべきシニア時代の心構えをお話ししたい。それは、また別の機会にいたします。ヒントは「宝探し」。いったいどいうことなのか?皆さまもぜひ考えて見て下さい。
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- 第12回 いざという時のためにお金を使うか、いざという時が来る前にお金を使うか。それが問題だ。
- 第11回 僕が特上のにぎり寿司を食べられない理由。
- 第10回 ダウントンアビーのようなお屋敷ではないけれど
- 第9回 60歳を過ぎたら、自分の好みで洋服を買うのを辞めてみよう。
- 第8回 中年以降のパソコン、スマホの正しい買い方は人まねです。
- 第7回 オデッセウスと編み物
- 第6回 お金は自分や家族のためだけに使わない方が幸せになる
- 第5回 海外パック旅行で見えてくるもの 後編
- 第4回 海外パック旅行で見えてくるもの 前編
- 第3回 老後破産教に入信していませんか?
- 第2回 「おすそわけ」は廻りも自分も幸せにする。
- 第1回 前書きにかえて、10円玉の重み
Profile
経済評論家。1961年生まれ。慶應大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。大学卒業後、外資系銀行でデリヴァティブを担当。東京、ニューヨーク、ロンドンを経験。退職後、金融誌記者、国連難民高等弁務官本部でのボランティア(湾岸戦争プロジェクト)経営コンサルタント会社などを経て独立、現職に至る。『年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』(扶桑社)、『普通の人が、ケチケチしないで毎年100万円貯まる59のこと』(扶桑社)、『お金をかけずに 海外パックツアーをもっと楽しむ本』(PHP)、『アジア自由旅行』(小学館/島田雅彦氏との共著)『日経新聞を「早読み」する技術』(PHP)など、多数の著作がある。 Facebook