第21回 WISH

全感覚祭――GEZANのレーベル十三月が主催する、ものの価値を再考するインディペンデントフェス。GEZAN マヒトゥ・ザ・ピーポーによるオルタナティブな価値の見つけ方。

「クリスマスが今年もやってくる〜」
街にはそんな軽快なメロディが溢れ、例年と同じく神宮前の通りにはイルミネーションが煌々と木々を埋め尽くし、恋人たちは束の間手を離しiPhoneを向ける。両手にはチキンとケーキを買い家族がいる食卓へと急足で帰るサラリーマン、パーティーをめがけ跳ねる若者のグループ、いつものコンビニで缶ビールを買い一人でテレビをつける人、サンタクロースの訪問を待ち望み眠れない子ども。日本という国であらゆる人が当たり前にやってきたクリスマスと向き合ったり、またかわしたりしながら生きている。

先日、踊ってばかりの国の日比谷野音のライブに行った。その内容は今まで見てきた踊っての中でも一二を争うほどに素晴らしく、ご機嫌に酔ったわたしは踊っての子どもたちに最前で父ちゃんたちを見に行こう!とけしかけた。ヒヨコを引き連れるようにして空の笛を吹き野音の最前の柵にまで辿り着く。ビールを飲み干し、横を見るとそんな彼女たちの親父を見る目の透明さに引き込まれて息をのんだ。未来としか呼びようのない純粋な眼差しはこの世界のあらゆるノイズを貫通し真っ直ぐに世界を捉えていた。美しい瞬間だった。

 

パレスチナ、ガザ地区の虐殺で死者数が二万五千人を超えた。その7割が女性や子どもだという。そこには柵前で目をキラキラさせていた踊っての子と同じ年代の子どももいたはずだ。親父の仕事を見て未来に胸をときめかせる時間、公園でサッカーボールを蹴りワールドカップを目指してた子、医者になる夢のために鉛筆を握っていたいつもの教室、そんな足を吹き飛ばす戦車、そんな手を吹き飛ばす銃撃、すでにパレスチナには広島に落とされた原子力爆弾の倍の火薬量が投入されている。その火薬は当たり前の日々を燃やし、夢を無意味だとズタズタに破り捨て、瞳からはキラキラの部分を塗りつぶし、家族のテーブルを血の海にしている。誇張でも詩でもなく事実、今この世界で起きていることだ。そんな火薬をアメリカは全面バックアップし、従属国らしく日本も賛同を表明している。
サンタクロースがやってくる代わりに爆弾が降るクリスマスなんて考えただけでも辛すぎる。

下津を誘ってWISHという曲を録音をした。去年のこの時期にわたしが書き下ろしたものの歌詞を整え、君島大空がサウンドプロデュースとして音を重ねた。ジャケットには奈良美智、ロゴに北山雅和、毎度のことながらありえない時間のなさの中でみんな、瞬発力と集中力を併せ持って行動してくれた。この楽曲の売り上げを認定NPO法人ピースウィンズジャパンに寄付し、ガザの子どもたちやその家族の人道支援のサポートに当てたいと思う。

 

わたしも下津も立派な人間では決してないが、虐殺を許す世界が間違っていることはそんなクズにだってわかる。
今、安全な部屋の温いストーヴの前で文章を綴っている。この温い光を少しだけ分けることはできないだろうか? 今夜飲むビールを一本減らして寄付できないだろうか? いつか戦争が日本でも起こったら? そんな風に目の前の景色に変換しないと動けないようなやわい想像力ではなく、同じ色の血が流れ、同じようにクリスマスに胸をときめかせたりする当たり前を想像する。わたしたちの想像力はきっとできる。
お金がもしも厳しければ情報を拡散しよう。ちゃんとあなたたちを見ているという声は高いフェンスと監視カメラに囲まれた孤独な場所にだって勇気として届くはずだ。
曲の内容はガザで眠れない子どもの立場に立ち作ったものではない。ジャーナリズムなどおこがましく、わたしと同じようにこの街を歩き、イルミネーションを鬱陶しく思ったり、不意にその奥の月を綺麗だと抱きしめる、そんな普通の時間を過ごすわたしたちの暮らしから見る世界を歌ったあなたの歌なんだ。

「神さまはどこにいったの?」と泣き叫ぶ子の動画を見た。神とは、国家とは、一体誰を守るための存在なのだろうか?人を殺さなければいけない正当な理由とはなんだろうか?ブルーハーツの好きな歌詞にこんなものがある。
「僕パンクロックが好きだ。やさしいから好きなんだ」
神もサンタも動かないならパンクを起動させる。こんな世界で綺麗事を言っても仕方がないなんて静観を受け入れる人間でいたくない。聖なる夜だからこそわたしはこのパンクに希望を託した。
Wishという言葉にはiが含まれていて、わたしたちではなくわたし。連帯の前にまずそれぞれの中でうたた寝をしていた沈黙を揺り起こす。一人一人の想像力が、高いフェンスの中で過ぎ去るのを待ち固く閉ざしたその瞳に再び光を灯すことを信じて
We Wish a Merry Christmas. Pray
祈る。

 

▼『WISH』Bandcamp https://jusangatsu.bandcamp.com/track/wish
▼『WISH』Official Audio (YouTube) https://www.youtube.com/watch?v=TyTJ60U2Pls 

▼『WISH』配信URLs https://linkco.re/F3G2cD8T

▼ガザ支援の為の寄付金受付口座
PayPay銀行(0033) ビジネス営業部(005) 普通4026231 ド)ジュウサンガツ
※受付期間 : 2023年12月24日(日)~2024年1月5日(金)

▽寄附予定先一覧
・認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン  https://peace-winds.org/activity/area/gaza
・特定非営利活動法人日本国際ボランティアセンター(JVC)https://www.ngo-jvc.net/news/news/202310_gaza.html
・国境なき医師団  https://www.msf.or.jp/

 

 

 

2009年、バンドGEZANを大阪にて結成。作詞作曲をおこないボーカルとして音楽活動開始。うたを軸にしたソロでの活動の他に、青葉市子とのNUUAMMとして複数のアルバムを制作。映画の劇伴やCM音楽も手がけ、また音楽以外の分野では国内外のアーティストを自身のレーベル十三月でリリースや、フリーフェスである「全感覚祭」を主催。中国の写真家Ren Hangのモデルをつとめたりと、独自のレイヤーで時代をまたぎ、カルチャーをつむいでいる。2019年、はじめての小説『銀河で一番静かな革命』(幻冬舎)を出版。GEZANのドキュメンタリー映画「Tribe Called Discord」がSPACE SHOWER FILM配給で全国上映。バンドとしてはFUJI ROCK FESTIVALのWHITE STAGEに出演。2020年、5th ALBUM「狂(KLUE)」をリリース、豊田利晃監督の劇映画「破壊の日」に出演。初のエッセイ集『ひかりぼっち』(イーストプレス)を発売。監督・脚本を務めた映画「i ai」が公開予定。

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第20回 Million Wish

全感覚祭――GEZANのレーベル十三月が主催する、ものの価値を再考するインディペンデントフェス。GEZAN マヒトゥ・ザ・ピーポーによるオルタナティブな価値の見つけ方。

あまり上手に眠れない日々が続いている。勉強やスポーツにはカリキュラムの型があるが、睡眠はどうやって上手になればいいのだろうか。親や先生にも教えてもらった記憶もなく、皆自然に学習していったのだろうか? 海の撮影で黒く日焼けした腕をさすりながら重い目を開けて困っている。
頭の中はぐちゃぐちゃで、未来の記憶までもが波の満ち引きのように押し寄せるのは夏の幻がいたずらに心を掻き乱すからだろう。「Shangri-Ra」のMVと並行して中野サンプラザの公演の映像を編集している今、そこで輝いている霊性の一つ一つが問いかけてくる。

2023年の夏、フジロックのGREEN STAGEの上でMillion Wish Collectiveは融解する。繋いでいたCollectiveという約束はほどかれ、それぞれの日常に皆一人一人が溶け出していく。バンドのように結成したわけではないから融解という言葉はピッタリとくるね。

思えば、前ベースのカルロスが脱退した日の翌日、下北沢のSpreadで何のプランもないまま声を出し始めた日から二年間、ずっとミリオンはそばにあった。いや、いてくれた。表でどう見えていたかはわからないけど、壊れかけていたバンドの内情と破綻した運営、それに相反して大きくなっていくGEZANへの時代の視線の間にははっきりとした軋轢があり、その間にある不協和音のけたたましさを解いてくれたのは紛れもなくミリオンだった。コロナによって奪われた嫌に退屈な静寂の中で毎週会い、予測のつかないうっすらと肌に張り付く不安の中で声をだす時間にどれだけ救われただろう。その流れのまま立ったフジロックのRED MARQUEE、顔を真っ赤にペイントして撮影した「萃点」のMV、ロケバスの車内で聞こえる意味のない会話の声が今もやまびこのように頭の中で反響している。
メンバーに話せないような葛藤を夜明けまで聞いてくれたのはミリオンのメンバーで、そこに魔法はなく、ただ心と時間を使ってくれた。

 

当たり前のことだが、皆それぞれに人生があり生き方がある。ミリオンメンバーの中にはアーティストやバンドマンもいれば、ステージに立つのも初めてだった人もいる。現場労働で汗を垂らしながら練習の時間を確保したり、夜な夜な代々木公園に集まって自主練をやっていた人もいる。もっと、ミリオンとしての活動を続けたかった人、ここが潮時だと帯を締めている人、バラバラなのは当たり前のことで、そのどれもが正解で正しい。だからここで融解する。フジロックで始まりフジロックで約束は溶ける。

 

人と人とはどうして出会うのだろうか?
綺麗事では片付けられないものをデザインという行為は隠すことができる。都合のいい景色だけを電子の海の上に残し、不都合な瞬間をレタッチして和平的な健全さをアピールすることは簡単なことだ。人は見えてるものだけを真実だと認識する。その奥側を想像する体力がある人は一握りで、仮に一瞬露呈しても大きな流れの中に埋没する。数えられなかった涙や、人知れず溢れた孤独のこと、あなたにも経験があるだろう? 派手にカウントを重ねるいいねと強烈なニュースの元に押し流されなかったことにされる。日々、わたしたちの胸を貫通していくのはそんな景色の連続だ。

「JUST LOVE」という曲の一説に「人が集まるっていう暴力」という言葉がある。融解を目の前にした今、ミリオンに感じていた一つの感触はこれだった。だってそうだろう? わたしが夜の底から集めてきた歌詞の一つ一つをちがう生き方をしてきた人間が100%シンクロすることなど不可能だ。思ってもいないこと、理解できないこと、それらをコーラスとして口に出すことの提案には暴力を内包している。
「あなたのアイデンティティを借ります」
わかった上でやっているの、そんな集合体への理解を示すためのわたしの詩はある種の懺悔の羅列でもある。寄り添ったつもりでいても平気で気付けないでいるわたしも強い光に立ち眩み、足元に咲いていた花を踏んでいる者と何も変わらない。そんな後悔ともつかない感情を思うのは画面から伝わってくるみんなの真剣な眼差しだった。わたしはミリオンの皆の純粋さを借りていた。そして心は何かと組み合わされないと実像を持つこともできない。故に気付かぬまま通りすぎた瞬間たちが直立している改札口の前、わたしは考えていた。
どうすれば続けることができただろうか?

冷房で冷やしすぎた部屋、布きれ一枚を鼻の下までずりあげて咳き込む。いたるところで夏風邪が流行っているみたいだから気をつけなくちゃいけない。
ミリオンは学校みたいなところがあって、それぞれのメンバー間の関係性は水みたく流動していく。ケンカして口を聞かなかった者同士が翌月には笑いあってたりする。そのグラデーションを遠目で見ている人もいれば、イーグルのようにそもそもケンカしてたことも仲直りしたことも気づかない人もいる。プロの集団でないが故にその心の動きはコントロールされることなく露呈する。はっきり言って、これを浴びるのはとても疲れる。この疲弊は音楽なのか?と疑問を持つこともあった。学級委員長ができないからマイノリティを鼓舞するパンクに惹かれてバンドを始めたのにね、なんて弱気に首を垂れて脊椎を損傷する夏の日の午後に、あらためて、どうすれば続けることができたのかな?
きっと答えは明確で、ある種の宗教にするしかないのだと思う。意志を統一し、一つの強い思想でそれぞれの微細な差を均一化する。もしくは心を金で買うか? 胸糞悪くて反吐がでる。

THIRD SUMMER OF LOVE
「どうしてぼくらは出会ったの? 天国はにぎやかそう。悲しい季節なはずなのにキミはどうしてそんな綺麗に笑うの?」
サンプラザの映像を編集している帰り道、タクシーには乗らず歩きながらそんなフレーズを口ずさんでいた。この表情たちと別れるのだよ。一人一人と過ごしたシーンが倍速にした走馬灯として再生される。空のペットボトル、絞れるほど汗だくのTシャツ、スタジオ後のコンビニで買ったビールとくだらない話、ライブの前日に届いたメール「学生時代こんな部活だったら続けられたのかな?」組まれた円陣の肩と肩、向かい側のメンバーと目が合って奴は恥ずかしそうに笑った。リハを入念にやったのに気合いを入れすぎてライブの本番でマイクのコーンを握る男子メンバー、暑さ対策で練習中の冷房を下げないか?という提案に鬼クレームを重ねる女子メンバー、日比谷野音のライブ中にビルの隙間から吹き込んできた生き物のような風の正体、打ち上げの途中の終電で帰る時の寂しそうに手を振る顔、そんな一つ一つの風景が宝物であり、じきに凶器になる。
JUST LOVEは先程の歌詞の後こう続く。
「人が集まるっている暴力と、その先で重なる一瞬は奇跡。同じ頬で流す別の涙、また出会うためにサヨナラをしよう」
ミリオンと別れる今の気持ちの全てを語っているかのようで、そんな歌詞を随分と前に書いていた。いつだって、詩はわたしの前方を照らす。

わたしたちが一体何だったのか、過ごした時間が何だったのか、そのことを我々も知り、知ってもらった上で、最後の姿を見てほしい。サンプラザの映像を販売する前に無理言って一日だけ限定で公開することにした。
そこに映っているのは、一つのカタルシスにのみ昇っていく一色の光ではない。分裂し、引き裂かれ、矛盾しながら白い夜に発光する太陽たちの記憶だ。こんなことやってるやつらどこにもいないと思うよ。当日の現場でのミリオンのセリフも追撮された言葉も全てわたしが書いている。この暴力と隣合わせの一瞬の連帯を最後の時まで希望と呼ばせてほしい。サンプラザの公演はそんなプロジェクトだった。
先行で公開されたJUST LOVEを見ながら、きっとこの先、この夏以上にいいJUST LOVEを演奏することはできないかもしれないと思った。ミリオンで一緒に声を重ね、つくったのだもの。
それがわかっていてもきっと演奏を続けていくよ。それがわたしたちの続ける旅の正体だから。

特別蒸し暑い2023年の夏の記憶を這い回るゴーストたちが今夜も眠らせてくれない。見えなくなっても居座り続ける、思い出という名のゴースト。しまっていた引き出しから跳ね上がる響きの一瞬一瞬、表情と振動に水面はずっと乱れている。
でも、そんなまとまらない混乱した気持ちも練習で声を出していると整ってくるから不思議だね。焦燥感とロックっていうのとことん相性がいいんだ。
不思議な季節にきみといた。まわりくどく言ってけど、シンプルに言って別れることが寂しいんだね。
こんな気持ちのことなんて言うんだっけ?
青春って言うんだっけ?

残されたステージが一つ。
「出会ったことに意味があるならここで証明しないか?」ずっと反響している、何度も歌ってきたフレーズ。フジロックが終わればぐっすり眠れるかな? その時見る夢の中でわたしはどんな顔をしているだろう。今のわたしにはちゃんと混乱した表現だけが優しく思える。複数形の太陽と蜃気楼の先でわたしは会い、用意された答えの先にいく。
羽なら持ってる。あとは空と呼ばれている場所で浮かぶだけ。わたしたちがここにいたこと七月に覚えておいてもらうんだ。それぞれの太陽が見えてきたら耳打ちしよう。きっとそれはいいアイデアだよね?

 

 

photography Shiori Ikeno

 

2009年、バンドGEZANを大阪にて結成。作詞作曲をおこないボーカルとして音楽活動開始。うたを軸にしたソロでの活動の他に、青葉市子とのNUUAMMとして複数のアルバムを制作。映画の劇伴やCM音楽も手がけ、また音楽以外の分野では国内外のアーティストを自身のレーベル十三月でリリースや、フリーフェスである「全感覚祭」を主催。中国の写真家Ren Hangのモデルをつとめたりと、独自のレイヤーで時代をまたぎ、カルチャーをつむいでいる。2019年、はじめての小説『銀河で一番静かな革命』(幻冬舎)を出版。GEZANのドキュメンタリー映画「Tribe Called Discord」がSPACE SHOWER FILM配給で全国上映。バンドとしてはFUJI ROCK FESTIVALのWHITE STAGEに出演。2020年、5th ALBUM「狂(KLUE)」をリリース、豊田利晃監督の劇映画「破壊の日」に出演。初のエッセイ集『ひかりぼっち』(イーストプレス)を発売。監督・脚本を務めた映画「i ai」が公開予定。

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