第4回 全感覚祭 大阪

全感覚祭――GEZANのレーベル十三月が主催するものの価値を再考する野外フェス。GEZAN マヒトゥ・ザ・ピーポーによるオルタナティブな価値の見つけ方。

書きたいことは山ほどあった。

聖人君子じゃないわたしは、この数日間腹に溜め込んでた本当の気持ちにチクチクと刺されていた。近隣店舗の管理体制のずさんさや、その当日の対応、思い出すだけで悔しさがにじむ。

何より誰のことも守れなかった自分の無力さに目眩がする。何度もコラムを下書きに書いたが、公開することを踏みとどまるわたしを見て、もっと大切なものができたことを知る。
分断を望んでいるわけではないから、この気持ちは咬み殺す。わたしは暗闇に向かって大きく吠えた。

 

 

「この景色を生でみれたわたしは世界一幸せな高校二年生」
来ていた子の一つのツイートにハッとする。対応に追われ、公私などなく忙殺され、記憶に蓋がされかけていた一週間。綺麗な景色、たくさんあった。全感覚祭の大阪。

 

降水確率90パーセントだった空の雨雲を押しのけて、当日は綺麗な晴天だった。その青色の下で金の箔をつけたチビが走ってる。
フードを食べたり、寝てたり、楽しんだ人もそうでもなかった人もいただろう。作り込まれた全員の百点満点でなく、それぞれに委ねられ、ちゃんと自由だった。

護岸沿いにたゆたう静かな時間の流れの中で一同がステージの折坂くんを見つめる中、その頭上を抜けていった飛行機雲のこと、覚えてる。

海の奥のいまだに謎のモニュメント、忙しさからフードの列に並べないことを気使い、ネジ梅チームが配膳してくれたあら汁が擦り切れそうな骨に染み入る。

海に跳ねた魚、HOPEという帽子をかぶってた爺さんが飯を食ってる。マジでHOPEだ。何でもない、そんな些細なシーンこそ忘れたくない。

 

 

設営チームは前日眠る間もなく、走り、そしてあのステージを組み上げた。祭の前夜は大雨で工程通りにいかず、サウンドチェックを前日にすることができなかった。

強い雨が吹き荒れる深夜、会場の一つであるファンダンゴの屋根の下で疲弊した顔をつねりミーティングが重ねられる。
前日、会場で行われていたイベントが1時間ほど押してはじめて、そのかわりにトリのGEZANを室内でやった方がいいのでは?そんな意見が飛び交うほどに設営は遅れていたが、当日の朝、蓋を開ければ雨雲は消え、 綺麗に晴れた秋の空がそこに広がっていた。

第一回の頃はただの客で、その片付けの要領があまりに悪かったため手伝い始めた、それをきっかけに音楽業界にのめり込んでいったダービー、彼が図面を引き、あのステージは組み上がった。
とても素人のできるレベルではないだろう?踏みしめ、しなるその床は我々の誇りだ。

 

 

警備のボランティアスタッフは永遠に笛を吹きあの道を通る車から来場者を守りきった。

草むしりして広がった道の端から飛ばされるけたたましい笛の音も耳の裏に張り付いて残ってる。あれはもう夏の終わりの一つの風景だ。

 

周防大島の村上さんと明珍さんが会場にトラックで到着する。荷台にはたくさんのお米が敷き詰まっていた。何人かで積み下ろしする米袋。手渡された重いそれをフードチームが炊き上げる。立ち上がる湯気、花が咲く、垂直にたつ米粒、笑みが溢れる。
こんな現場で生まれたものが誰かを傷つけるわけないことは初めからわかっていた。村上さんは会場には残らず刈り入れに向かいトラックを走らせた。帰り道、いい話ができたと涙を流したらしい。

 

もっと話がしたい。
食べ物の未来は命の未来に他ならない。

 

そして、食中毒の症状の声があがった際、明珍さんから米農家の村上さんに概要を伝えられたが「十三月は大丈夫でしょ」そう軽くあしらったと言う。
あの空間を信じてくれた。 その米を疑わせるような状況を作ってしまった後ろめたさと悔しさ、その念が少しだけ救われた気持ちだった。

才能なんていらないから、わたしもやさしい人間になりたい。

 

アーティストの展示はそれはもう、自由の街、大阪を象徴するようで、こればっかりは東京では作り得ない空間が広がっていた。
朝方、会場に到着し、準備が進められる中、徹夜したであろう写真家のマサが仲間のスケーター数人と地べたで死体のように転がっていて、潰れた酒の空き缶の向こう側にマサのガキの写真が何枚も貼られていた。

その時点でワタシは成功を確信していた。

この祭の本質を射抜いていた。

 

いのちだ。シャレでもなんでもない。生きてること舐めるなよ。なんでか涙が出た。本当だ。

ライブで話したことはここでは書かない。数えればキリがないけど、確かに存在した一日。今でもふいに何気ないシーンを思い出す。

 

時間はたち10月に入ってしまった。東京開催に向け、忙しさに拍車がかかるが、わたしたちは元気だ。
肝炎で倒れて入院したヒロシも体調が戻り、退院した。丸一日時間を作れなかったため、退院祝いがジョナサンでのミーティングと併用になってしまい、
申し訳程度のメニューの中で一番栄養のありそうな二十品目のサラダと、 若鶏のみぞれ煮をご馳走した。
薄味に慣れた舌ではまだ刺激が強いみたいだ。これだけ準備してきて大阪の全感覚祭に出れなかったGUAYSは相当に踏ん張っていたことだろう。
細くなったが、その闘志に燃える背中はたくましく見えた。
自分の出番がないからと、夜警をかってでたキャプテンのこと、こいつらが輝かない未来に価値などないだろうと思う。

 

東京の会場の印旛医大前駅にはタクシー会社と連携をとりタクシーを集める。値段も千円ほどで、相乗りすれば300円程度でいけてしまうが、徒歩での移動を圧倒的にオススメする。
歩いて30分かかるが単純に会場までの田舎道は気持ちがよく、日々の喧騒をくぐるカーテンのようで準備に向かう道すがらいつも気持ちが出来上がる。
海外のフェスではよくあることだし、そもそも万全なホスピタリティなら他のフェスにあたってほしい。

お腹をすかして会場にたどりつきご飯を食べてくれ。現在、BODY ODDの相方であるyellowuhuluによる行く道中用のMIXも制作中だ。フリーで解放するからご機嫌にいこうじゃないの。

 

全感覚祭のステイトメントを韓国語、英語、中国語に翻訳したものHPにアップした。意図ならわかるだろう?全世界からボーダーフリーにきてほしい。ただ各々が想像力だけ持ちえたら何が正しいかなんてルールでしばらなくてもきっとわかるはずだ。

これはメッセージなんて呼ばれるもの以前の話だ。人間と人間。それ以外にこの祭りの参加資格もそれを審査するゲートもない。肩書きは家を出る前に引き出しに置いてきたらいい。

ボランティアもフードもまだまだ募集している。
なんだか不思議な縁はどんどんと広がっていく。漫画家の新井英樹さんや豊田利晃監督も自分から志願してくれた。

この波紋は予想を越えたところに我々の船を向かわせる。どんな世界が待っているのか、内側から見上げる花火もきっと綺麗だと思う。

是非、連絡してほしい。この祭が奇跡ではなく当たり前に成立する時代であってほしい。当たり前のことなんて何一つなかった。もう、すべて現実。
綺麗な話にまとめるつもりもないし、いいことも悪いこともただの一つもファンタジーじゃなかった。これから始まる未来に向けて準備を進める。

東京は人も増えるだろう。試されている。

感傷に浸る時間はまだ先だ。

 



 

Photography Shiori Ikeno


ボランティアに関する募集要項
【内容】
・ステージ関係 (楽器運搬、音響さんや舞台回りのお手伝い)
・会場ケア (交通誘導 、出店ブース補助 、グッズコーナー補助、ゴミ拾いなど)

【ボランティアに関する連絡先】
zenkankakusai.volunteer@gmail.com
こちらまでご連絡お願いいたします。
皆様のご協力よろしくお願いいたします。

【開催日程、場所】
・TOKYO
2019/10/12(土)
印旛日本医大 HEAVY DUTY
住所 : 〒270-1613 千葉県印西市鎌苅672-6

フードに関する募集
今年の全感覚祭はフードフリーに挑戦します。自分や大切な人が生きている今と、これからくる新しい時代を好きでいるための試みです。そこで、もしこのコンセプトに賛同してくださる方や、お店をされている方など、是非ご協力いただければと思います。感心を持たれた方はまず、ご連絡ください。
刺激的な時間や景色が日常につながっていくための全感覚のための祭。どうぞ宜しくお願い致します。

【内容】
・食材を提供してくださる方 (米、野菜、肉、魚だけでなく、味噌や醤油などの調味料も。集まった食材などをもとにメニューを考えたいと思っていますので一度連絡をお願いいたします。)
・盛り付け・洗い物・配膳・食材運搬・列整理・下処理補助等
・調理器具を貸してくださる方(業務用鍋など)
・調理のお手伝いや料理の得意な方、またこのコンセプトに賛同してくれるショップの方

ご連絡お待ちしております。
【フードに関する連絡先】zenkankakusai.food@gmail.com

フードフリーのためのAmazonほしいものリストも公開しています。

・東京
https://www.amazon.co.jp/gp/aw/ls/ref=aw_wl_lol_gl?ie=UTF8&lid=2F168PCADXRTU

 

またこの試みに賛同してくれる方、募金の方もよろしくお願いします。

【事前募金振込先】
ゆうちょ銀行 四五八支店
普通預金 1156467 カネコツカサ

(*口座は十三月のメンバーであるカネコヒロシの父親の口座です)

 

2009年、バンドGEZANを大阪にて結成。作詞作曲をおこないボーカルとして音楽活動開始。うたを軸にしたソロでの活動の他に、青葉市子とのNUUAMMとして複数のアルバムを制作。映画の劇伴やCM音楽も手がけ、また音楽以外の分野では国内外のアーティストを自身のレーベル十三月でリリースや、フリーフェスである「全感覚祭」を主催。中国の写真家Ren Hangのモデルをつとめたりと、独自のレイヤーで時代をまたぎ、カルチャーをつむいでいる。2019年、はじめての小説『銀河で一番静かな革命』(幻冬舎)を出版。GEZANのドキュメンタリー映画「Tribe Called Discord」がSPACE SHOWER FILM配給で全国上映。バンドとしてはFUJI ROCK FESTIVALのWHITE STAGEに出演。2020年、5th ALBUM「狂(KLUE)」をリリース、豊田利晃監督の劇映画「破壊の日」に出演。初のエッセイ集『ひかりぼっち』(イーストプレス)を発売。監督・脚本を務めた映画「i ai」が公開予定。

twitter / website