モヤモヤの日々

第60回 春はすごい

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

春らしい陽気の日が増えてきた。花粉症の季節でもあるため、我が家で一番よろこんでいるのは愛犬ニコルだろうか。昨日3月21日をもって、新型コロナウイルス感染拡大にともなう1都3県の緊急事態宣言が解除された。さっそく春の日差しを浴びながら外出したいところだが、39年間、虚弱体質として生きてきた僕は、人一倍、警戒心が強いのが唯一の長所なので、しばらくは様子を見たいと思う。

今年は花見が開催されるのだろうか。花見といえばいつも思い出してから後悔するのが、「花見の季節は意外と寒い問題」だ。なんとなく暖かい春の陽気と桜という朗らかなイメージに誘われて、ついつい薄着で出かけてしまう。しかし、実際には花見の季節は、まだまだ冷え込む。桜の木の下に陣取り、お酒を飲んだりしているのだから、当たり前といえば当たり前なのだけど、なぜか毎年「桜の季節は意外と寒い」問題を忘れてしまう。そして、しばしば風邪を引く。僕の感覚では、どんなに暖かい日でも、上着や膝掛け、足の裏など末端を温めるホッカイロを持っていく必要がある。

とはいえ1年以上、自粛していたのだから落ち着いたら外に出たい。都心の部屋に引きこもっていたので、盛り場に行きたい欲求よりも、自然と触れ合いたい気持ちのほうが今は強い。なんでもかんでも「問題」にしてしまって恐縮だが、僕は世の中には「ダンゴムシが絶滅してしまった問題」というものがあると思っている。実際は、もちろんそんな事実はない。しかし、子どものとき、あれほど身近な存在だったダンゴムシを、僕は少なくとも10年くらいは見た記憶がないのである。

これは今が都会暮らしだからではなく、自然溢れる東京の西の奥にある福生市(僕の出身地)でも、大人になってからはダンゴムシを見かけない。おそらく、同じ世界を見ているつもりでも、子ども時代と、大人になってからでは見ている世界が違うから、このような誤認が生じてしまうのだろう。

「蠢動(しゅんどう)」という言葉があるほど、春は虫や草花の生命力が一気にわきあがってくる。春はすごい。緊急事態宣言が解けたからといってすぐに大手を振るって外出することは、人一倍、警戒心が強いのが唯一の長所の僕としてはできないけど、まず身近な自然からダンゴムシを探したいと思う。

 

宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid