モヤモヤの日々

第166回 二代目・朝顔観察日記(3)

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

近代日本画の巨匠・鏑木清方(かぶらき・きよかた)は、随筆「あさがお(一)」(岩波文庫『鏑木清方随筆集』)収録)のなかで、「朝顔は下手のかくさへあはれなり」という芭蕉の句を引き、こう記している。「牡丹や菊は、どこまでも巧くかけていなければ、その花の気品が出て来ない。だが朝顔は、全く芭蕉のいうように、たどたどしい一筆がきにもしおらしい風情は汲める」

そして朝顔の生命力を、「私たち庶民の間に、この花ほど親しめる花はない。種を播くことさえ怠らなければ、どんな狭い庭にでも一と夏、秋過ぐるまで花を絶たない。庭がなければ鉢に植えても充分な鑑賞が出来る」と称賛している。今の状況で、これほど頼もしい言葉はない。

強風によって崩壊した一代目にかわり、季節外れに種まきされてしまった二代目の朝顔が、ついに発芽した。といっても、高速道路のパーキングエリアで売っているような素朴な種の鉢に3本、ブランド朝顔「団十郎」の鉢に1本だけ生えたのみだ。青色の花を咲かす朝顔「ヘブンリーブルー」の鉢には、まだ芽が生えていない。競い合わすわけではないが、公平に扱いたいという理由から、なぜか一番発送が遅い素朴な朝顔の到着を待ってから種をまいた。

しかし実際には、素朴な種の生命力をあまく見ていたようだ。3本とも葉が緑で瑞々しい。公平にするために到着するまで待つ必要は、一切なかったようである。一方で、団十郎の芽は葉も黄色がかっていて、どうも元気がない。朝顔は、ずっと昔から庶民に親しまれ、目を楽しませてきた。だからこそ矜恃をみせてほしいのだ。がんばれ団十郎。ブランド朝顔!

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid