モヤモヤの日々

第97回 寝てない自慢

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

仕事ばかりしていた。なにを言っているんだと思うかもしれないが、本当に仕事ばかりしていたのだ。昨日の午前10時半、この連載の原稿を提出してからというもの、本日午後3時の今に至るまで仕事をしていたのだから、「仕事ばかりしていた」という表現に納得していただけると思う。つまり、昨日分の原稿を書いてから、仕事しかしていなかったことになる。

これではモヤモヤしようがない。だって仕事しかしていなかったのだし、そもそも仕事が徹夜になってしまったのは、他の誰でもない僕の怠惰が原因なのである。つい先ほどまで待たせてしまった某編集者氏にも、今も本日分の原稿を待っているだろうこの連載の編集担当・吉川浩満さんにも迷惑をかけてしまっている。先ほど吉川さんに電話したが、妙に明るい声で「大丈夫ですよ。休憩をとって、ゆっくり書いてください」と言っていた。あの諦念にも似た明るさは、滅びの前に訪れる朗らかさのそれではなかったか。そうでないと祈りたい。

「寝てない自慢」をしていた若い頃が懐かしい。繰り返し言うが、昨日(今日?)の徹夜は一重に僕の怠惰が招いた結果である。そもそも僕は、寝つきが悪いくせにロングスリーパーなので、滅多に徹夜なんてしないのだ。39歳で徹夜した今の感想としては、ただただ腰が痛い。

もう限界なので最後に予言しておくと、僕はこの原稿を送ったら100パーセントの確率で寝ているだろう。いつもは連載が公開された直後にツイッターで晶文社の公式ツイートをリツイートしたり、自分でも告知の投稿をしたりしているが、おそらく今日はそれをしないで寝ている。僕が起きて再びスマホを開く頃には、たくさんの読者の方から「お疲れ様でした」といった心温まるコメントが寄せられているだろうか。もしくは「今日は更新しないんですか?」といった問い合わせのツイートが寄せられているだろうか。今の思考能力では判断できないものの、「この原稿を送ったら100パーセントの確率で寝ている」という予言だけは間違いなく的中しているはずだ。なぜなら寝るからである。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid