モヤモヤの日々

第61回 本の片付けについて

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

僕は仕事部屋を片付けなければいけなかった。そして、猛烈に片付けたかった。床に本や雑誌などが散らばって、足の踏み場がない状態になっている。ずいぶん前からはやく片付けるよう、妻からせっつかれていた。収納など諸々の都合上、仕事部屋が片付かなければ、リビングも寝室も片付かないのだ。赤子や愛犬ニコルに、より快適な生活空間を提供したい。しかし、なかなか片付かない。

実は何度か片付けはしたのだ。僕は漫画も好きなので、本棚は基本的に漫画で埋まってしまっている(コンビニコミックス版で揃えたあだち充『H2』が明らかに幅を取りすぎている)。部屋の間取りや広さを考えれば、これ以上、本棚を増やすことができないため、本は漫画の本棚の上や、窓際にある広いスペースに並べたり、床に積んだりしている。なので、一度片付けても、仕事で必要な本を探し、必要な本や書類が増えていく過程で、あっという間に元の汚い部屋に戻ってしまう。それを何度も繰り返し、そして今、汚さはピークを迎えている。

妻はさすがに焦れていた。そして、僕も疲弊していた。はやく部屋を綺麗にしたい。妻と僕は話し合い、2月中には必ず部屋を綺麗にすると約束した。ところがどっこい、急な仕事や新規の執筆依頼が立て込み、状況は様変わりした。合間を見つけて片付けていたのだが、その時期に限って原稿の執筆に行き詰まることが何度も続き、結果、約束する前よりも部屋が汚くなってしまった。

しかし、ネガティブになっても問題は解決しないので、「次の日曜日までには必ず」と誓って、妻も応援してくれた。まずは手元の仕事を終わらせてしまおう。平日、毎日17時公開のこの連載も、たまにはストックなんかを作ったりしてみたい。それで土・日に時間を作って、一気に片付けるのだ。そう考えていた僕だったが、ことごとく土・日までに仕事が終わらないわ、土・日に体調を崩すわで、1週目が過ぎた。ほぼ同様の理由と結果で2週目も終わった。そして3週目の昨日、21時に仕事が終了した。リビングに戻ると、そこには露骨なまでの諦めモードが流れていた。僕はこの時点で、そうとう疲れていた。体は元気なのだけど、仕事で神経を使いすぎて、頭が上手くまわらない。まるで悪夢を見ているかのようだった。走っても走っても目的地にたどり着かない悪夢を見ているようだった。妻にしては珍しくはやく、もうその日は寝るという。僕も諦めてベッドに入った。

その瞬間、僕のなかでなにかが目覚めた。怠惰を極めたような僕だが、責任感というか、使命というか、どちらかと言えば罪悪感に耐えられない気持ちか抑えられず、僕はすでに寝た妻と赤子、愛犬二コルを残して仕事部屋に戻った。今回も、平日にちょこちょことやっていた。今までの失敗から学んでたどり着いたのは、窓際のスペースや床に本を積むのでは、片付けては汚くなってをずっと繰り返すので、ジャンルや著者ごとに分類して収納しておくのが一番、ということだ。多めに買っても他に用途があるだろうと、ネット通販でLサイズカラーボックス2個セットを7組注文した。しかし、届いてみると、カラーボックスが意外に小さい。というか、本が思ったよりかさばるのである。読書家なら引っ越しの際に誰でも経験することだが、本は普段思っているよりもっと実際はかさばる物質である事実を、すっかり忘れていた。

ちょこちょこ細かい分類をつくっているうちに、カラーボックスを2度追加注文した。2個セットが計21組。昨日、寝る寸前に奮い立って、徹夜で集中作業した。たとえば大岡昇平の『武蔵野婦人』は、「昭和・日本文学」「日本近現代文学」などに分類したいが、僕はTBSラジオ「文化系トークラジオLife」のメンバーと一緒に「武蔵野」という表象について探っているので、カテゴリーは「武蔵野」。そうやって細かく、また文脈に沿って分類し、本をカラーボックスに収納していった。ボックスにはメモをつけた。

そして、もうすぐすべてが終わるタイミングで、この連載の本日分の締め切りが近づいてきたために一時中断し、今、原稿を書いているわけである。なんと、本の分類と収納はすでに済んでいる。やった! ついに片付けが終わる。(僕のせいで)我が家を悩ませ続けた「片付け事件」がついに終結するのだ。原稿もなんとか書き終わりそうになった今、僕の仕事部屋は、本が収納された計42個のカラーボックスで足の踏みどころがない状態になっている。途方に暮れている暇はないので、なんとかしなければならない。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid