ツイッターでたまに起こる珍現象として、ずっと前に投稿したツイートがリツイートやいいね!される、というものがある。みなさんも経験があるのではないか。普段は気に留めずスルーするのだけど、つい最近、この現象が起こったときはなんとなく理由が知りたくなった。
そのツイートは、世界初の「緩まないネジ」を発明した道脇裕さんのインタビュー記事(リクナビNEXT「プロ論。」2016年2月17日付)についてのものだった。道脇さんの名前で調べてみて、理由がすぐにわかった。2021年6月17日の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)で道脇さんが特集されたのである。それを観た視聴者が検索し、僕のツイートを見つけたのだろう。
カンブリア宮殿で「学歴ナシの天才発明家」と紹介されているように、僕が以前に読んだ記事でも、冒頭で学歴について触れられていた。道脇さんは、既存の学校教育に疑問を持ち、「今のままの日本の教育ではダメだ」と先生に訴える小学生だったという。義務教育は自主休学し、高校もほとんど通わずに、その間、新聞配達やビラ配り、商店街の手伝い、住み込みの漁師、とび職の職人などを経験した。科学実験や電子工作にも興味を持って取り組んだ。
道脇さんが一番こだわっていたのは、「この世とは何なのか?」「(自分は)何のために存在しているのか?」といった問いの答えだった。学校の教育が、その答えを教えてくれるとは思えなかったのである。しかし、さまざまな経験をした結果、道脇さんは「自分はバカである」という事実に気が付く。そして、バカを克服するための方法論を考えた末にたどり着いたのが「徹底的に勉強する」であり、しかもその方法は「社会が定めている教育カリキュラムと極めて似たモノ」だった。その後、道脇さんは大検を受け、アメリカに留学した。
紹介したエピソードは記事の前半部分に過ぎず、アメリカ留学も結局はすぐにやめてしまったという。道脇さんのことをもっと知りたい方は、記事や番組のアーカイブをチェックしてほしい。僕が以前、ツイートしたときに面白いと思ったのが、型破りな人生を歩み、型破りな発想力で次々と新しい発明や問題解決を行なっている道脇さんが、いろいろ考え、いろいろ経験した結果、意外にも自分が不満を抱いていた「社会が定めている教育カリキュラム」の(ある程度の)出来のよさに気づいたという話だ。ただ単に既存の制度に従うのではなく、疑問を抱き、考えた結果の答えだったから価値があったのだろう。
以前この連載で、やる気はあったり、なかったりするときがあり、とくにフリーランスになってからは仕事のやる気をコンスタントに維持するのが難しく、その方法を考えた結果、僕が思いついたのは、ほとんどが会社員の時代には習慣化していたものであった、と書いた。道脇さんとただ怠惰なだけの僕を比べるのはおこがましい限りだけど、そういうことは案外、あり得る話なのである。
とはいえ、コロナ以後、働き方も、学校教育も、さまざまな側面で変化している。いや、そのはるか前から、現場では時代に対応するべく、新しい取り組みが試され続けている。いつの時代にも、どんな人にも通用するグランドセオリーなど存在しない。だからこそ、たとえ少しずつであっても問題点を改善し、よりよい仕組みや環境をつくっていく必要があるのだ。
1982年3月生まれの僕は、思えばいつだって、「これからは、今までのやり方や考え方は通用しなくなる」と言われ続けながら育った。たしかにその通りで、多くのものが変化していった。よく変化したものもあれば、悪くなったように感じるものもある。「今が歴史の分岐点だ」と、小学生のときも、39歳になった今も言われ続けている。いや、1982年3月生まれの僕だからではなく、いかなる世代の人も、そう言われ続けてきたのではないかと思う。
いずれにしても、歴史をすべてなかったことにするのは不可能であり、今が分岐点かどうかも、実際には後から歴史を振り返ってみなければわからないことである。積み重ねられた歴史のなかで、改善すべきもの、そのなかでも今すぐ改善して実行に移さなければならないものはなにか。残していくべきものはなにか。その判断の速度が以前よりも速く求められているのは確かなように感じる。焦りはあるけど、僕は僕の目で、できるだけきちんと見極めたい。そして、微力ながらも実行に移していける勇気がほしい。そんな思いで、今日も目を凝らしながら生きている。
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1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤ
Twitter: @miyazakid