モヤモヤの日々

第176回 二代目・朝顔観察日記(4)

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

9月に入っても朝顔観察日記は終わらない。今日の最高気温は前日より8度ほど高い30度で、久しぶりに日差しも強い。いつもなら暑いのは嫌がるのだけど、ずっと曇りか雨が続いていて日照不足の朝顔を思うとテンションが高まる。早速ベランダに出て、鉢を日向のほうへ少しだけ移動した。

一代目の朝顔が強風で崩壊し、その意志を継いで育てている二代目たちだが、高速道路のパーキングエリアで売っているような素朴な種の鉢には4本の芽が生え、一昨日、支柱を立てた。そろそろ蔓が伸びてきそうである。ブランド朝顔「団十郎」の鉢には2本の芽が生えているものの、こちらはどちらも発育がよくない。しかし、着実に、少しずつ、葉に生気の色が現れはじめているのが毎日観察しているとわかるので根気強く付き合いたい。念のため、団十郎にも支柱を立てておいた。

問題は、青色の花を咲かす朝顔「ヘブンリーブルー」である。こちらの鉢ではまだ1本も発芽していない。やはり季節外れの時期に種を植えたのがいけなかったのだと思う。申し訳ないことをした。

しかし、かわりにキノコが生えた。間違って買った大型の鉢の真ん中に、小さくて、上品な、これぞキノコの典型といった形のキノコが1本、ぽつんと生えていた。その凛とした生え方が健気に思えてきてそのままにしておいたのだけど、もしヘブンリーブルーの芽が出たらキノコは引っこ抜いたほうがいいのだろうか。それとも共存させるべきだろうか。そんなことを考えていたら、いつの間にかキノコがなくなっていた。消えた。きっとベランダに鳥が来て食べたに違いないと思っている。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid