モヤモヤの日々

第194回 地震

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

昨夜遅く、千葉県北西部を震源とする地震があった。東京でも震度5強の揺れを観測した。あの日からすでに10年以上も経っている。久しぶりに3.11のときの恐ろしさを思い出した。

昨夜は妻と赤子は早い時間に寝ていた。僕はベッドライトの灯をつけ、読書をしていた。突然、強い揺れを感じ、しばし思考が停止してしまった。熟睡していた妻が飛び起きて、赤子の上に覆いかぶさった。僕は揺れが少し弱まったのを認めると、リビングに走って行き、ケージの中で震える愛犬ニコルを抱きかかえた。揺れがおさまるまで犬を抱えて丸まっていた。

ツイッターで情報を確認し、また揺れるかもしれないから気をつけようと妻と話した。赤子は妻の下でひっくり返ったカエルのような姿で寝ていて、結局、一度も起きなかった。まったく呑気な赤子である。一方、ニコルはさすがは野生だけあって、震えながら僕の側を離れず、ずっと警戒していた。

いつのまにか、枕元に備えていた防災グッズもクローゼットの中に収納してしまっていた。時の流れを感じた。しかし、いつ、再びあの規模の災害が起きてもおかしくないのだ。防災意識を高めるとともに、頑なに筋トレを拒む“アンチ筋トレスト”の僕も、せめて赤子と犬を抱えながら避難できるくらいには鍛えておく必要があるのかもしれない。そんなことを考えた。

ちなみに、朝顔の鉢は無事だった。さすがに今から「三代目・朝顔観察日記」を始めるのは無理がありすぎる。常に頭を悩ませている蔵書も、コンテナボックスに入れていたので、本の山が崩れることはなかった。しかし、朝起きて家の中を確認してまわると、いくつかの置物や飾りが床に落ちていた。今一度、地震対策を練り直し、防災に努めなければいけないと思った。筋トレはそれからでも遅くない。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid