モヤモヤの日々

第225回 文学フリマ

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

昨日は、東京流通センター第一展示場で開催された「第33回文学フリマ東京」に行ってきた。文学作品の展示即売会で、一般商業流通には乗らない作品も集まる。文学フリマに初めて行ったのは2003年、青山ブックセンターで開催された第2回目のイベントだ。僕は大学3年生だった。当時はホッチキスでとめただけの冊子も多かったと記憶している。今は小ロットの製本が比較的容易になり、お洒落なデザインの雑誌やZINEがたくさん出展されている。今回は久しぶりの来場となった。

見たいブースがたくさんあったのでなるべく早く行こうと思っていたが、いつもの段取りの悪さが災いしてしまい、到着したのはイベント終了1時間30分前の15時30分ごろ。まずは、「早熟な晩年 中原中也試論(一)」を寄稿した文芸誌『しししし4』(中原中也特集)が販売されている「双子のライオン堂」のブースに行った。ブースでは、この連載の「第157回 父と中原中也」を大幅加筆修正した「第157.5回 父と中原中也(2)」と「中原中也ブックガイド」を収録した小ペーパーを、30枚限定で配布してもらっていた。店主の竹田信弥さんに訊くと、その時点でもう残り3枚になっていた。ありがたい限りである。

そんなこともあろうかと、僕は自分で20枚ほど印刷して持参していた。もしほとんど手に取られていなかったら恥ずかしいので持参したのはなかったことにしようと思っていたのだが、残り3枚と訊いて僕は堂々と、「実は持ってきていますよ」と竹田さんに告げた。追加した小ペーパーも無事に旅立っていった。

『しししし4』も100冊以上売れて、大好評とのことだった。僕は竹田さんに「小ペーパーの文章、読みましたか?」と訊いた。竹田さんは「忙しかったので、まだ読めていません」と笑顔で答えた。さすがは竹田さんである。ダンゴムシを見つける達人ではあっても、段取りは僕と同じで悪い。読んでいないのをいいことに、僕はまた堂々とした態度で「名文ですから読んでくださいね」と言った。この小ペーパーは、文学フリマに来場できなかった読者の方にも、なんらかのかたちで共有したいと思っている。僕と竹田さんのことだからちょっと遅くなってしまうかもしれないが、いずれなんとかしたい。竹田さんは剣道3段である。

次に読書会についてのエッセイ「『わからなさ』を共有する空間」を寄稿した、リトルプレス『日々の読書会通信 vol.3』を販売するブースにあいさつに行った。ここではリトルプレイスを持った僕の写真を撮ってもらって、ツイッターに投稿してもらった。僕は信じられないくらい虚な目をして写っていた。我ながら最高だ。

TBSラジオの深夜番組「文化系トークラジオLife」でよくご一緒していた作家の海猫沢めろんさんと批評家の矢野利裕さんのほか、歌人で漫画家、イラストレーターのスズキロクさん、作家の友田とんさん、歌人の伊波真人さんともお会いできた。また、面識がなかった小説家の太田靖久さん、著作『うろん紀行』(代わりに読む人)が話題になっている作家のわかしょ文庫さん、ライター、書評家、インタビュアーの長瀬海さん(長瀬さんとは、オンラインイベントをご一緒したことがある)ともお話しできたのがうれしかった。

小説家の太田さんには、『犬たちの状態』(太田靖久=小説、金川晋吾=写真、フィルムアート社)の感想をお伝えした。緊張してうまく言葉にできなかったのが心残りだが、「犬ですよね」「犬ですよ」「○○さんも犬ですよ」「おお、そうですか」「○○さんも犬です」「なんと」「やっぱり犬ですよね」「やっぱり犬です」と犬の話で盛り上がった。太田さんは愛犬ニコルのことを可愛いと言ってくれて、僕はご満悦になってしまった。

文学フリマ、なんて素晴らしいイベントなんだ。楽しすぎる。今回は「接触確認アプリ」の提示を求められるなど、新型コロナウイルス対策を行なったうえでの開催となった。徐々にだが、日常が戻りつつある。文学に限らず、さまざまなイベントが安全に開催できる世になってほしい。以前のように愛犬家のイベントにも行きたい。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid