モヤモヤの日々

第81回 ニコルのこと

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

散歩をしていると、よく「かわいい〜」と声をかけられる。この前は、近くの中学校なのだろうか、女子生徒の集団に「かわいい〜」と何度も言われた。外国の人にも英語で「So cute!」と絶賛してもらったことがある。もちろん、愛犬ニコルのことである。僕であるはずがない。

妻が、僕と共通の友人を家に連れてきた。妻たちは外で待ち合わせし、カフェでお茶をしてから家にやってきた。挨拶もそこそこ、妻が「うんちした?」と訊いてきた。「したよ」と僕は答えた。妻がさらに「どんな感じだった?」と質問してきたので、僕は「大きくて、健康的なやつがたくさん出たよ」と報告した。目をパチクリして、不思議そうな顔をしていた友人は、なにかを閃いたような表情に変わり、「ああ、ニコルちゃんのことね」と自分に言い聞かせるように呟いた。

そう。すべてはニコルのことである。

 

宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid