モヤモヤの日々

第15回 不意打ち

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

うちの犬(ニコル)は、散歩の前に興奮して大暴れする。ハーネスやリードをつけるのも一苦労だ。なんとかこの行動を止めさせるため、暴れたら一度ゲージに戻したり、散歩の時間をずらして規則性を持たせず、事前に察知されないようにしたり、いろいろ工夫している。

少しずつ改善しているようには思えるが、妙に勘のいいニコルは、飼い主のわずかな変化を嗅ぎつけて散歩を敏感に察知する。たまに勘違いして、僕がコンビニに行くだけのときや、仕事の合間にストレッチをしているときにも大暴れするから、本当に困ったものである。

ある時、外着に着替えずに、部屋着のまま散歩に行ってみることにした。僕に抱かれたニコルは寝室に連れて行ってもらえるのかと思ったのか、クゥンとあまえた声を出している。その隙に、ハーネスとリードと、夜間だったので光る首輪をニコルに装着して外に連れ出した。

ドアを開け、エレベーターに乗っても、ニコルは僕の腕の中で大人しくしていた。マンションを出て、地面に降ろしてからも、まだキョトンとしている。あまりに不意をつかれたのだろう、状況が飲み込めていないのだ。しかし、目の前を自転車が横切って行った瞬間、キョトンとしていた目に感情が宿った。「やった! これは散歩だ!!」。そう気づいたニコルは、うれしそうにぴょこんぴょこんと二度だけ飛び跳ねた。その動作がたまらなく愛しかった。

ただ、それだけを伝えたいがために、この文章を書いた。あれは本当に可愛かったなあ。

 

宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid