一流のスポーツ選手は、「ルーティン」を大切にしている。元メジャーリーガーのイチローは、マリナーズ時代に朝昼兼用のブランチとしてカレーを毎日食べていた時期があったという。また、イチローは、バッターボックスに入る前にバットを膝に置いて屈伸運動するなど、試合中にもルーティンを取り入れていた。それによって、集中力が高まるのだとか。
僕にも原稿を執筆するまでのルーティーンがある。まずは椅子に座り、ヘッドフォンをつけて、爆音でお気に入りの音楽を聴く。Apple Musicから流す時もあれば、YouTubeで動画を観ながら聴く時もある。テンションが上がってきたら、次は本に手を伸ばす。近々に読んだ本の中で、特に気に入った2、3ページに何度も目を通し、執筆のモチベーションを高める。
たいていは、それで執筆が始まるのだが、その日はどうも気が乗らず、同じルーティンを何度も繰り返していた。原稿が三つも溜まっている。そろそろ集中しなければならない。しかし、音楽を聴いては本を読み、本を読んでは音楽を聴きを、おおよそ30回以上も繰り返したものの、一向にキーボードを叩く気になれない。いったい自分の何がいけないのだろうか。焦れば焦るほど、心がどんどん混乱していく。僕は力なく椅子を立ち、リビングに向かった。
リビングには妻がいた。僕は妻に助言を求めた。「ねえ、俺ってどう思う?」。妻は怪訝な顔で僕を見た。「どうって、なにが?」「いや、どうかなと思って」「だからなにが?」「う〜ん」「どういう基準で評価すればいいの?」「いいとか、悪いとか」「なにを?」。僕は少し考えてから、「わからない」と答えた。妻はため息を吐き、「なにかがわからないなら、それがわかるように努力するといいよね」と助言してくれた。肩を落として、僕は仕事部屋に戻った。
とりあえず、椅子に座ってキーボードに触れてみた。そして書き上げたのが、この原稿である。なにがわからないのかはまだわかっていないけど、みなさん、僕ってどう思いますか?
1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤ
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