モヤモヤの日々

第11回 心の余裕

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

ある宅配業者からLINEがきた。荷物の受け取り日時を指定できるという。実家からの荷物だった。いつ登録したのが記憶はさだかでないが、便利な世の中になったものだと感心した。翌日はずっと家にいる予定だったので、いつ配送されても構わないが、こういうものは出来るだけ早く受け取ったほうがいいだろうと真面目な僕は考え、「午前中」に日時を指定した。

はたして、荷物は翌日の正午を5分ほど過ぎて届いた。インターフォン越しにお礼を言い、新型コロナウイルス対策のため接触は避け、玄関の前に置いておいてもらうことにした。

玄関前に置かれた荷物を部屋のなかに運びながら、僕は思った。「それにしても、なぜ僕はこんなにも憤っているのだろうか」と。5分の遅れがなんだというのか。このご時世、宅配業者さんは大変な思いをして仕事をしている。だいいち僕はその日、ずっと家にいる予定だったのだ。たった5分の遅れなど、わずかな誤差に過ぎないではないか。日本人は時間に正確だと言われている。別の国の人にしてみれば、驚くほど正確な仕事に思えるかもしれない。

しかし、僕はコンビニに行ったり、シャワーを浴びたりしたかったのだ。午前中のいつに届くのかわからないため、ずっと我慢していたのであった。もし、はじめから午後12時5分に届くと教えておいてくれれば、それまでにコンビニも行けたし、シャワーも浴びられたし、犬の散歩だってできた。充実した午前を過ごしてから、荷物を受け取ることができたのである。

時間とはいったいなんなのだろう。そして、便利とはいったいどういうことなのだろうか。便利すぎると、余計に不便になることもある。心に余裕のある人間に、僕はなりたい。

 

宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid