モヤモヤの日々

第20回 絵文字の解釈

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

ある夜、Instagramのストーリーに友人が僕の新刊の感想を書いてくれた。とてもうれしい内容だったので、僕は標準装備されている「クイックリアクション」の中から😂の絵文字を選んで彼に送った。するとすぐに、「ん? どういう感情?」というメッセージが来た。

僕としては「うれしい😂」という意味のつもりだったのだが、彼にはそれが伝わっていないらしい。慌てて返信すると、「なんか俺の文、変な文だったかなと思って心配になった(笑)」と返ってきた。う〜ん。なるほど。顔文字は人によって解釈が違うのか。スマートフォン(iPhone)で調べてみると、涙を伴う絵文字は少なくとも5種類があることがわかった。

深夜11時過ぎに、40手前のおじさん2人が議論する内容ではないかもしれないが、議題は意外と重要である。なぜなら、コミュニケーションを円滑にするために存在するものであるはずの絵文字が、むしろ心のすれ違いを生む可能性があることに気づいたのだから。僕たちは一つひとつの絵文字について丁寧に議論し意見をすり合わせ、さらにTwitterに投稿して寄せてもらったフォロワーからの声を参考にしつつ、下記のコンセンサスを得るに至った。

  • 😂うれし泣き
  • 😭尊い泣き
  • やや悲し泣き
  • 😢悲し泣き
  • 🤣笑い泣き

38年間の知恵と経験をフル活用して出した結果である。自信はあるが、もちろん異論は認める。しかし、少なくとも僕ら二人の間では、もう心がすれ違うことを心配する必要はなくなった。その夜、おじさん二人は安心して暖かな布団に入り、すやすやと眠ったのであった。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid