モヤモヤの日々

第33回 自信

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

この連載は平日、毎日17時に公開される。「よくそんなことできるよね」と感心してくれる人がたまにいるのだが、僕には続けられる自信がある。そもそも毎日ひとつはこの手の小噺を考えて、誰かに、というか主に妻と犬に話している。それなら原稿にしたほうがいい。「話すより、絶対に書いたほうがいいよ」と妻も勧めてくれた。「書けば話さなくて済むでしょ?」といつになく強く勧めてくれた。

さらにいえば、この連載の構想は以前からずっと頭の中にあった。しかし、毎日ブログを書いている人はいくらでもいるし、「コラムを毎日公開する」なんて企画は、別に珍しくも、大したことでもないのではないか、といった思いがあった。だが、編集を担当してくれている吉川浩満さんに企画の概要を説明してみたところ、「それができたら面白い。すごいことですよ!」という好反応を思いがけずいただけた。ならば絶対に続けられる自信があるし、「話さなくて済むでしょ? 書けば話さなくて済むんだから、やったほうがいいよ」と妻もやたらと真剣に訴えてくるし、挑戦してみることにした。

ところが、いざやってみると多少の誤算はあった。連載を始めてから改めて実感させられることになった、新型コロナウィルス感染拡大の影響である。僕はふらっと街に出たり、誰かと会ったり、会合に参加したりすれば、たいていひとつかふたつは「モヤモヤ」を見つけてくる。そのことが人からすれば根拠が乏しいと思えるかもしれない自信につながっていたのだが、こうも外出しない日が続くと、「モヤモヤの日々」がどんどん薄ぼんやりとしてきて、「靄がかかった日々」になってきてしまうのである。だが、いまだに自信は揺らいでいない。もっともっと目を凝らせば、日常にモヤモヤが潜んでいるはずだ。家にいて、仕事して、犬の散歩をする日々が繰り返される生活の中にも、きっと見えていないものがある。最悪、「ネタがない」というネタがまだ残されているではないか、と。

ままならない人生を送っている僕がここまで己に対し自信を持てる事柄なんて、ほかにあまり思いつかない。しいていえば毛根くらいなのだが、最近では「薄毛の広告」のせいでそれも揺らいできている。自信を持つことはいいことだ。自分を信頼することが、誰かを信頼する勇気にもつながる。だから、僕はこの自信を大切にしていきたいと思う。もし今、自分を信頼できなくなっている人がいたならば、この連載と僕を思い出してほしい。あんなにままならない奴でも根拠のない自信を持って連載を続けているではないかと思ってほしい。僕が連載を続けている限りは、少なくとも人類が滅亡したりはしない。みんなに安心してもらいたいのだ。そんな気持ちで、今日も原稿を書き続けている。

最後に念のため記しておきたいのは、今日のコラムは「ネタがない」というネタを書いているわけでは決してない、ということだ。あくまで「自信」について書いたコラムである。そこのところだけは、くれぐれも誤解がないようにお願いしたい。僕には「ネタがない」というネタがまだ残されている。

 

Back Number

宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid