モヤモヤの日々

第51回 クレーム対応

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

僕が東京都出身と名乗ることに違和感があると以前、この連載で二度(※1※2)書いたら、なんとフェイスブックの友達から、「あそこらへんは山梨かと思っていた」というクレームが入った。孤独に続けていたこの連載にもついにクレームが入るようになったかと感慨深い限りだが、クレームというのはつまり文句なわけなので、真摯に応えることにした。

まず貴殿のおっしゃることは正しい。正しいのですが、それはひとつの史観だけにとらわれていないでしょうかと問いたい。なるほど中央線で考えると、たしかに中央本線は八王子を通り抜け山梨に向かう。八王子千人同心の始まりは甲斐国だといった背景も、もちろん知っている。そのうえで指摘したいのは、八王子は南多摩であり、僕が書いているのは西多摩のことなのだ、という齟齬についてなのである。たしかに西多摩も山梨に縁が深い。しかし、少なくとも僕が住んでいた福生市あたりでは、鉄道より道路のつながりのほうが日常の基本だった。国道16号線を八王子方面に行くと神奈川へ、瑞穂町側に行くと埼玉へといった感覚を抱いて暮らしていた。電車を使うときは、通勤や通学でない限り、青梅線圏内の立川に行けばだいたいこと足りた。

おそらくクレームは、「子どもの頃は巨人ファンより西武ファンのほうが多かった」という記述を受けてのことだと思うのだが、だからそれは別に不思議な話でもなんでもないのだ。もっと詳しく知りたければ、柳瀬博一さんの『国道16号線──「日本」を創った道』(新潮社)などを参照されたい。

こんなことを、僕は必死に書いている。晶文社さんのウェブマガジンで必死に書いている。ご存知だとは思うが、晶文社さんは東京都千代田区神田神保町1丁目にあるのである。いや、もちろん興味は持ってくれているとは思うのだけど、単純に編集担当の吉川浩満さんとしかやり取りしていないから、よくわからないのだ。吉川さんは、「これは重要な仕事ですよ」とおだててくるが、果たしてそうなのだろうか。あまりに怪しすぎて頭に血が上っているほうの僕が、「まあ、他の都市でも同様の問題はあるでしょうしね」などと冷静なフォローを入れてしまうくらいだった。晶文社の皆さん、読者の皆さん、この話、興味ありますか?

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid