うちの犬(ニコル)は、散歩の前に興奮して大暴れする。ハーネスやリードをつけるのも一苦労だ。なんとかこの行動を止めさせるため、暴れたら一度ゲージに戻したり、散歩の時間をずらして規則性を持たせず、事前に察知されないようにしたり、いろいろ工夫している。
少しずつ改善しているようには思えるが、妙に勘のいいニコルは、飼い主のわずかな変化を嗅ぎつけて散歩を敏感に察知する。たまに勘違いして、僕がコンビニに行くだけのときや、仕事の合間にストレッチをしているときにも大暴れするから、本当に困ったものである。
ある時、外着に着替えずに、部屋着のまま散歩に行ってみることにした。僕に抱かれたニコルは寝室に連れて行ってもらえるのかと思ったのか、クゥンとあまえた声を出している。その隙に、ハーネスとリードと、夜間だったので光る首輪をニコルに装着して外に連れ出した。
ドアを開け、エレベーターに乗っても、ニコルは僕の腕の中で大人しくしていた。マンションを出て、地面に降ろしてからも、まだキョトンとしている。あまりに不意をつかれたのだろう、状況が飲み込めていないのだ。しかし、目の前を自転車が横切って行った瞬間、キョトンとしていた目に感情が宿った。「やった! これは散歩だ!!」。そう気づいたニコルは、うれしそうにぴょこんぴょこんと二度だけ飛び跳ねた。その動作がたまらなく愛しかった。
ただ、それだけを伝えたいがために、この文章を書いた。あれは本当に可愛かったなあ。
1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤ
Twitter: @miyazakid