モヤモヤの日々

第189回 やりたいことリスト

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

緊急事態宣言が解除された。と思ったら、台風が近づいている。以前、強風で朝顔の鉢が崩壊してしまった反省もあり、さっそく二代目の朝顔を避難させた。今度は守り切れるといいのだが。

緊急事態宣言が解除されたからといって、すぐに日常が戻るわけではない。行政による制限等もそうだが、個人レベルでもどれくらい、どのタイミングで自粛を緩和すればいいのか決めなくてはならなくなるだろう。そういう意味では、僕はしばらく様子見という立場になりそうである。

しかし、長く続く自粛生活のストレスは、そろそろ限界にきている。だから最近、「コロナが収束したらやりたいことリスト」をつくって、心の安定をはかっている。たとえば「服を買いたい」という項がある。外出が少なくなって服を買う機会が減ってしまった。外出が今より気楽にできるようになったら、服を新調して気分を上げたい(だだし、これは自粛で増えてしまった体重を落としてからになる)。さらに、なにか「新しく習い事を始めたい」。さんざんバンドマンに間違えられているため楽器を習うのもいいなと思っていたが、ボーカルトレーニングなんかもどうだろうと思えてきた。なぜなら、僕が超絶に歌が上手かったら面白いから。きっと面白いと思う。

あとは、「いろいろな書店をまわりたい」。コロナ以前の僕にとって、書店はあまりに身近で、外出すればほぼ毎回のように寄る大切な空間だった。それが今は、コロナ以前よりは気軽に足を伸ばせなくなっている。コロナ以後に気づいた、僕にとって書店がどれだけ大切な場所だったかという思い。この気持ちは、一生忘れないでいたい。個人の欲望を言い出したらキリがないくらいやりたいことがある。

だが、まずは家族に報いたい思いが最優先にある。クルマの免許を持っていないため、赤子と愛犬ニコルには、極端な移動制限をかしてしまっている。赤子は1歳4か月(息子)で、生まれてからのほとんどの期間、なにかしらの宣言やらアラートやら重点措置やらが発令されている状態だ。僕と妻の親戚に十分に会わすことができておらず、東京の奥の奥に住む母にも、赤子を二度しか見せてあげられていない。自然豊かな郊外なので犬も連れて会いに行きたいと思っている。

さて、これらの「やりたいことリスト」がすべてやり尽くされるのはいつになることやら。この連載でもたびたび欲望を書き立てているが、僕にはまだまだやりたいことがたくさんあるのだ(そのほとんどが、大したことない欲望である)。やり尽くせるのがいつになるかはわからないけど、このリストを見ていると少しだけ前向きになれるような気がしている。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid

モヤモヤの日々

第188回 二つ名

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

「二つ名」(異名、通り名)のようなものに弱いのは、幼い頃から週刊少年ジャンプを読みすぎたせいだと思う。たとえば『ONE PIECE』では、主人公ルフィが憧れている海賊シャンクスは「赤髪」と呼ばれているし、相棒のゾロは「海賊狩り」の二つ名を背負って登場した。『SLAM DUNK』にも「エースキラー」「愛知の星」といった二つ名が出てきたのはあまりにも有名だ。僕もいつかカッコいい二つ名がほしい。少年時代、そんな風に思っていた。

さて、そんな僕につけられた二つ名が「優しい死神」と「働く廃人」である。これは昔の職場の後輩からつけられたもので、どう見ても不健康で虚な目をしているのに、仕事だけは大量にこなす異様さから拝命した二つ名だ。うれしくはあるのだけど、なにかが違う。思っていたものと、かなりのズレがある。そうモヤモヤしていたところ、前著『平熱のまま、この世界に熱狂したい 「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を読んだ方が、こんな感想をツイートいてくれていた。

「透明で澄んだ中島らも」

カッコいい。なんかカッコいい! 僕はこういうのを待っていたのだ。中島らもさんに対し恐れ多すぎる気はするものの、この二つ名は中学生からエッセイを愛読していた僕にとって光栄以外のなにものでもない。実際にそれくらいの文名を獲得できるくらい頑張りたい次第である。

ところで、僕がマスメディアをとおして拝見した限りでは、中島らもさんはとても透明で澄んだ方だったと記憶している。あれ以上、透明で澄んでしまうなんて、僕はどうなってしまうのだろうか。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid