モヤモヤの日々

第143回 4連休

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

明日から4連休である。つまり、「平日毎日、17時公開」のこの連載も4連休である。社会人になって以来、土日や祝日が関係ない職業に就き続けていたため、なんとも不思議な感じがする。

といっても、他の仕事をやらなければならないし、なによりも昨年末から戦い続けている仕事部屋の片付けと、そろそろ決着をつける必要がある。連載のない4日間を使って、滞っているタスクを一気に進めるつもりだ。そう簡単に行くかどうか。熱心な読者の方なら、だいたいは予想がつくと思う。僕が張り切ってことに臨むと、ほとんどの場合は裏目に出る。

なので、大きなプラスを狙わずに、とりあえずはマイナスにならない4日間を過ごしたい。具体的には、熱中症やいまだ収束していない新型コロナウイルスへの感染などには、特に気を付けなければいけないと気を引き締めたいと思う。7月23日(金)の「体育の日」には、東京オリンピックの開会式が行われる。この状態で本当に開催されるのだろうか。と思っていたら、すでに今日正午の時点で、最も早い競技の開幕戦はすでに終わっているのだという。

それなりに仕事をして、部屋の片付けをして、生活をして、家族と過ごす。いつもと変わりない日常が4連休も続きそうだが、家族4人(1匹含む)で近所に出掛けるくらいのことはしたいと思っている。4連休の間、どのようなことがこの東京で起き、社会の雰囲気や人々の心境はどのように変化するのか、もしくはしないのか。容易には予想しがたい部分がある。

そんな状態なのだから、4連休明けに僕がどうなっているかなんて、誰にも予想ができない。僕自身が一番わからない。物凄い宮崎をお披露目できたらいいな、なんて思ったりしないでもないけど、繰り返しになるが大きなプラスを狙わずに、とりあえずはきちんと連休明けの連載を更新したいと思う。物凄い宮崎になってしまったら、きっと悲しむ人が世界中に6、7人くらいはいるのではないか。

読者のみなさまにとって4連休が充実したものになりますように。そして連休中も働いているみなさま、どうかくれぐれもご体調にはお気をつけてください。連休明けも間違いなく、僕は物凄くなんてなっていないのでご心配なく。唯一、恐ろしいのが、4日も連載を休むことにより、連載の存在をうっかり忘れてしまうのではないかということだ。親切な読者の方がいらっしゃったら、「明日からまた『モヤモヤの日々』ですよ」とツイッターなどで教えてもらえると幸いである。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid

モヤモヤの日々

第142回 文字入りTシャツ

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

日本語がプリントされたTシャツを着ている外国の人を見ると、モヤモヤすることがある。たとえば、「肉が主食です」といった類の文字入りTシャツだ。しかし、考えてみれば、日本人だって外国語がプリントされたTシャツをよく着ている。以前、友人のTシャツに「New York」と書かれていたので、「行ってきたの?」と訊いてみたら、「一度も行ったことがない」と言っていた。

僕の出身地・東京都福生市には、米軍横田基地がある。村上龍や山田詠美などによる、米軍カルチャーを描いた作品が有名だ。まだ若い頃、基地の人たちが集まるクラブのような場所に行ったことがある。そのとき、陽気な米兵さんたちは僕のTシャツを見るなり大爆笑して、次々と握手やハグを求めてきた。数人からは、記念撮影までねだられるほどの人気ぶりだった。

大学受験し、大学でも英語を習っていたのだけど、僕はTシャツにプリントされている言葉を翻訳できなかった。今になっては、なぜあのとき辞書で調べなかったのかが悔やまれる。失笑されている感じはなく、「You are the best!」と何度も賛辞をおくられ続けたのであった。

最近、キューバで買ってきたカッコいいTシャツを部屋着で着ている。今年4月から「部屋着お洒落化計画」を実行し始めて以来、たとえ1日中、出掛ける用事がなかったとしても、パジャマで過ごすのをやめようと決めたのだ。そこでクローゼットから取り出したのが、2019年にキューバを旅行した際に、お洒落なショップで買ったお洒落なTシャツだった。

Tシャツは真っ黄色の原色。バナナヨーグルトが大好きな赤子(今日で1歳2か月)は、妻や僕がバナナを剥く様子を見て、「あまま」と言うようになった。たぶん「バナナ」のことである。ということは、黄色も認識したのかもしれない。そんなこともあり、僕はキューバで自分用のお土産として買ったお洒落な黄色いTシャツを、外着だけではなく、部屋着でも着るようになった。

つい先ほど、そのTシャツにスペイン語でなにかがプリントされているのを初めて意識したので、このコラムを書いている(キューバはスペイン語圏)。上部に「pais en construccion」、下部に「clandestina」とプリントされているそのデザインは、やっぱりお洒落だ。赤子がもっと喋れるようになって質問されたときに答えられるよう、念のためGoogle翻訳で意味を調べてみた。

【Google翻訳】
・pais en construccion - 建設中の国
・clandestina - 秘密

どういう意味なのだろうか。いや、そういう意味なのだろうが、どういうそういう意味なのだろうか。なんとも暗号めいた不思議な言葉の並びである。文化が違えば言葉の感覚も違うし、もしかしたらもっと深くキューバの文化を知らないと理解できない言葉なのかもしれない。と思ったところで「待てよ」と踏みとどまり、もう少し調べてみると、おそらくは「clandestina」はブランド、「pais en construccion」はそのセカンドラインの名前であることがわかった(たぶん)。

Google翻訳によると、「clandestina」のホームページには、「デザイナーのIdaniaDel Rioによって2015年に設立されたクランデスティーナは、キューバ初の衣料品ブランドであり、デザイナー、アーティスト、クリエイターのユニークな集団です」と書かれている。IdaniaDel Rio氏がハバナのスタジオで働いている写真も掲載されている。なんてお洒落なブランドなのだろうか。

つまり、僕の「部屋着お洒落化計画」は、滞りなく実行されているのである。赤子が好きなバナナの黄色だし、「キューバはハバナにスタジオがある気鋭のブランドなんだよ」と説明すればカッコいいし、「バナナ」と「ハバナ」で言葉遊びができるかもしれない。僕の経験によると、赤子はそういった「遊び」によって、さまざまなことを学んでいくものである。

赤子に質問されるその日まで、Tシャツを大切に着続けると同時に、スペイン語の発音も練習しておきたい。最近の自動翻訳には発音を確かめる機能がついている。クランデスティーナ!

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid