scrap book スクラップとは、断片、かけら、そして新聞や雑誌の切り抜きのこと。われらが植草甚一さんも、自分の好きなものを集めて、膨大なスクラップ・ブックを作っていた。ここでは、著者の連載から、対談、編集者の雑文など、本になる前の、言葉の数々をスクラップしていこうと思います。(編集部)
モヤモヤの日々

第188回 二つ名

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

「二つ名」(異名、通り名)のようなものに弱いのは、幼い頃から週刊少年ジャンプを読みすぎたせいだと思う。たとえば『ONE PIECE』では、主人公ルフィが憧れている海賊シャンクスは「赤髪」と呼ばれているし、相棒のゾロは「海賊狩り」の二つ名を背負って登場した。『SLAM DUNK』にも「エースキラー」「愛知の星」といった二つ名が出てきたのはあまりにも有名だ。僕もいつかカッコいい二つ名がほしい。少年時代、そんな風に思っていた。

さて、そんな僕につけられた二つ名が「優しい死神」と「働く廃人」である。これは昔の職場の後輩からつけられたもので、どう見ても不健康で虚な目をしているのに、仕事だけは大量にこなす異様さから拝命した二つ名だ。うれしくはあるのだけど、なにかが違う。思っていたものと、かなりのズレがある。そうモヤモヤしていたところ、前著『平熱のまま、この世界に熱狂したい 「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を読んだ方が、こんな感想をツイートいてくれていた。

「透明で澄んだ中島らも」

カッコいい。なんかカッコいい! 僕はこういうのを待っていたのだ。中島らもさんに対し恐れ多すぎる気はするものの、この二つ名は中学生からエッセイを愛読していた僕にとって光栄以外のなにものでもない。実際にそれくらいの文名を獲得できるくらい頑張りたい次第である。

ところで、僕がマスメディアをとおして拝見した限りでは、中島らもさんはとても透明で澄んだ方だったと記憶している。あれ以上、透明で澄んでしまうなんて、僕はどうなってしまうのだろうか。

 

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    長野生まれ。個人的な体験と政治的な問題を交差させ、あらゆるクィアネスを少しずつでも掬い上げ提示できる表現をすることをモットーに、イラストレーター、コミック作家として活動しつつ、エッセイなどのテキスト作品や、それらをまとめたジン(zine,個人出版物)の創作を行う。