モヤモヤの日々

第89回 連休明け

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

大型連休が終わり、出社している人も多いだろう。カレンダー通りならそうなのだが、会社が木曜日、金曜日を休みにして(もしくは有給休暇を取って)、5月10日が連休明けのパターンもあるらしいから、まだ連休中の人もいるかもしれない。今、無意識に「出社」と書いてしまったけど、仕事によってはリモートで連休明けの勤務を始めている人もいるはずである。今年の5月の大型連休は、ゴールデンウィークとは呼びにくい。そんな感覚を抱きながら、この間を過ごしていた。

といっても僕はフリーランスなので、この連載(平日、毎日17時公開)をカレンダー通り休んだ以外は、いつもと同じ通常運転で仕事をしていた。自分で休日を決められるのが、フリーランスという業種の数少ない利点のひとつなのだ。なにもみんなが休んで混雑している期間に、わざわざ休む必要はない。だけど、この大型連休は、行楽せずに巣篭もりをしている人が多かっただろう。僕もいつもと同じように、巣篭もりをして仕事をしていた。なんだか、頭が混乱してきた。

そんな僕も、4月後半から比較的、忙しい日が続いていたからか、大型連休中に一度、「明日だけは休みたい」と音をあげた日があった。どうしてだろう。なんだかまた頭が混乱してきたのだが、別に間違ってはいないと思うので続けると、大型連休中に一度、「明日だけは休みたい」と音をあげた日があったので、妻にそう言ってみた。「もちろん家のこともするし、気が乗ってきたら仕事もするし、どこかに出掛けるわけではないからずっと家にはいるんだけど、明日だけはそんな感じで自由に過ごしていい?」と訊いた。妻は「もちろん」と答えた後に一瞬だけ沈黙し、「でもそれって、いつもとどう違うの?」と腑に落ちない顔をした。

そう。いつもと同じである。いつもと違うのに、いつもと同じ。一方、いつもと同じなのに、いつもと違うとも言える。これはどうも匂う。警戒したほうがいいぞ! と、その場では妻に返すことはできず、うなだれていただけだったので、今、そう書いておこうと思った。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid

モヤモヤの日々

第88回 運転免許

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

昨日まで大雨だったのに、こうも天気がいいと外に出かけたくなってくる。緊急事態宣言下であるため、どうせ叶わない願いだっただろうけど、もし僕が運転免許を持っていたら、妻と赤子と犬を乗せて、自然を満喫できる行楽地までドライブし、澄んだ空気を思いっきり肺に吸い込みたかった。

だが、僕はそもそも運転免許を持っていない。20代は地域紙で記者をしていたため、毎日のように仕事でクルマを運転していたのだが、30代になってアルコール依存症を自覚してからは、自主的に更新するのをやめたという、偉いんだか偉くないんだかわからない理由で失効させてしまったのである。しかし、その判断は今考えても正しかったと思う。若い頃はなにかと運転を頼まれる機会が多いし、そうなったら断る自信も、酒を飲まない自信も当時はまったくなかったからだ。

断酒をして、そろそろ5年目になる。愛犬ニコルを、もっと自然がある場所に連れて行って、めいっぱい遊ばせてあげたい。一度目の緊急事態宣言下で生まれた赤子は、産まれてからずっと「外出自粛モード」で生きている。なるべく遠出は避けて、風景が綺麗なところに連れて行ったりはしているのだが、やっぱり家の中で過ごしがちである。毎日、絵本の読み聞かせをしていて寂しいなと思うのは、赤子は絵本に出てくる自然や動物を、ほとんど見た経験がないことである。

今の状況がこれからどうなるのかは、まだわからない。でも、今の都会暮らしでは味わえない体験を赤子と犬にさせてあげるため、いつかもう一度、運転免許を取得しようかと真剣に考えている。ちなみに、僕は優良ドライバーで、運転するのも好きだった。教習所でも、仮免許の学科試験に落ちた以外は、優秀な生徒だった。僕は、選択問題に弱いのである。試験をつくった人がすごくいじわるで、すべて引っ掛け問題なのではないかと思えてくる。簡単な問題であればあるほど、「いやいや、そんな簡単なはずはない」と深読みしてしまう。「この、明らかに一時停止の標識に見える標識が、一時停止であるはずがない」と裏をかいて誤答する。

もっと人間を信用して、次は一発で合格したい。

 

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宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid