scrap book スクラップとは、断片、かけら、そして新聞や雑誌の切り抜きのこと。われらが植草甚一さんも、自分の好きなものを集めて、膨大なスクラップ・ブックを作っていた。ここでは、著者の連載から、対談、編集者の雑文など、本になる前の、言葉の数々をスクラップしていこうと思います。(編集部)
モヤモヤの日々

第202回 徹夜について

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

久しぶりに赤子(1歳5か月、息子)の夜泣きが大発生し、これでもかというくらい妻と僕をぽかぽかと殴り、それを鎮めて僕は覚醒した。ゲラをやろうと思った。深夜2時。次に赤子が目覚めるのは、今までの経験からして約5時間後である。5時間もまとまった時間がとれる。間違いなく終わる。

来年の3月で40歳になる僕は、昔よく使っていた「徹夜」という方法論について、かなり前から見直しを迫られていた。なぜなら単純に体が辛いからである。たしかに徹夜すれば仕事は進むかもしれない。しかし、それによるダメージが翌日だけならまだいいが、翌々日まで残るようになった。これではいくら仕事が進んでも、全体としては効率が下がってしまう。

とはいえ、大暴れして爆睡している赤子と違って、大人の僕は寝付きが悪く、一度起きたらその後はなかなか入眠できない。つい最近も昼夜がひっくり返ったばかりだし、「少なくとも今年中はもう徹夜はよそう」と思っていたのに、どうせ眠れないならば、と徹夜の戦略を選択した。

早速、僕はTwitterを開いてエゴサーチした。いいねやリツイートをひと通りし、Instagramでは好きなアパレルショップの新着商品をチェックした。突然気になって部屋の片付けを始め、不要な書類を破棄する用に一箇所にまとめておいた。徹夜とは奥深いものである。同じ時間の長さなのに、午後2時〜午後7時と、深夜2時〜朝7時とでは、倍くらいの長さに深夜の時間が感じられる。時間が伸びる感覚、時計の秒針とは違う時間の流れのなかにいる。午後の5時間だと「もう5時間しかない」となるが、深夜の5時間は、なぜか人の心に余裕を生じさせる。

さて、1時間半が経ったのでそろそろゲラをやらなければいけない。そして実際にやった。一生懸命にやった。細かい校正や校閲、調整などが必要な評論のゲラだとはいえ、5時間あれば余裕で終わるはずだった仕事を半分終えて、僕は朝7時に就寝した。そして午前11時に起きて、この原稿を書いている。なぜなのか理由はまったくわからないけど、足が筋肉痛である。「少なくとも今年中はもう徹夜はよそう」と、今年に入ってから4度目くらいの誓いをするのだった。

 

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    長野生まれ。個人的な体験と政治的な問題を交差させ、あらゆるクィアネスを少しずつでも掬い上げ提示できる表現をすることをモットーに、イラストレーター、コミック作家として活動しつつ、エッセイなどのテキスト作品や、それらをまとめたジン(zine,個人出版物)の創作を行う。