モヤモヤの日々

第75回 「されている」

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

つい先程のこと、家のインターフォンが鳴ったので出ると、ある運送業者だった。新型コロナウイルス以降、人との接触を少なくするため、荷物は玄関前に置いてもらっている。そう伝えると、「開封されているので、念のため大丈夫か確認してほしい」とのことだった。

玄関のドアを開けると、運送業者の男性は同じ言葉を繰り返した。僕は開封されている荷物を確認した。仕事で必要な古書だった。帯が少し破れていたが、古書を注文したのだからそんなものだろうと思った。「大丈夫です」と伝えると、男性は短く礼を言い去っていった。無事に資料となる古書も届いたし、仕事をどんどん進めようと、僕は仕事部屋に戻った。

ところで僕の荷物は、誰によって「開封されている」荷物だったのだろうか。販売プラットフォームやクレジットカード会社などを除けば、この小さな経済活動には、主に三者が関わっている。販売業者、運送業者、注文者(つまり僕)である。いったい誰によって「された」のか。まず販売業者だが、自分たちが出荷する商品の梱包を開封する販売業者の動機が、僕にはどうしても見つからない。そもそも開封された荷物は、運送業者が受け取らないだろう。

となると、運送業者によって「された」としか思えないのだけど、運送業者は間違いなく受け身表現の「されている」を使った。つまり、運送業者以外の誰かによって「された」のである。そして、最後の容疑者として注文者(僕)が残ることになる。しかし、受け取る前の荷物を僕が開封するなんてことはあり得るのだろうか。いくら僕が愚鈍だからといっても、さすがにそんな過ちはおかしようがないと思うのだが、正直に言って絶対に違うと胸を張れる自信もない。

ついつい僕は「されている」を受け身表現だと思い込んでいたものの、「する」の尊敬表現だと思えば、たしかにすべての辻褄が合うような気がしてきた。つまり、「(宮崎さまがお荷物をすでに)開封されているので、念のため大丈夫か確認してほしい」だったのである。なるほど。そういうことだったのか。よし、ようやくモヤモヤも解消したことだし、どんどん仕事を進めよう。この連載の締め切りも、実は1時間以上、過ぎてしまっている。はやく提出しなければ。

それにしても僕は、受け取る前の荷物をどうやって開封したのだろうか。カッコいいので、できればもう一度やってみたい。

 

Back Number

宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid

モヤモヤの日々

第74回 スマホの充電ケーブルが溜まる件

浜の真砂は尽きるとも世にモヤモヤの種は尽きまじ。日々の暮らしで生まれるモヤモヤを見つめる夕刊コラム。平日17時、毎日更新。

部屋を掃除していると、いろいろと気が付く。乾電池のストックが家にあるかわからず追加で買ってしまい、また使用済みかそうでないかの区別がつかず捨て難いという理由から、「乾電池がやたらと家にある現象」が頻発していることは、以前この連載で書いた。そして、もうひとつ家にいくつも溜まってしまうものとして、スマートフォンの電源ケーブルがある。古い型のものも含めると、計9つの電源ケーブルが我が家から見つかった。異常である。

僕も妻もiPhoneをつかっている。まず最近のiPhoneはケーブルの種類が変わった。昔のものは使えないため捨てる必要がある。そもそも、なぜこんなに充電ケーブルが溜まるのかというと、Apple社が正式に発売する純正品のケーブルが、まずよくなくなる。探したり、新たに購入したりすればいいのだけど、とりあえず目の前のiPhoneを充電しなければならない問題を解決するために、コンビニや百円均一でiPhoneに「対応」していると謳われている充電ケーブルを買う。しばらくは使えるのだが、数週間か数ヶ月後には使えなくなる。

端的にいえば、これを何度も繰り返しているから充電ケーブルが溜まる。純正品ではないケーブルは、なぜか初めは使えるのだけど、ある日、突然充電できなくなる。「このアクセサリは使用できない可能性があります」などと表示が出る。純正品ではないのだから、「使用できない可能性」は、もちろんこちらも了解している。なので、面倒くさがらずに、少し値が張るとしても、純正品を買うに限るのだ。この件については、解決策はすでに出ている。

しかし、僕が一番モヤモヤするのは、純正品でないケーブルがある日、突然充電できなくなる現象ではなく、逆にむしろなぜ初めだけは充電できるのか、という疑義である。最初から純正品でしか充電できなくしておけば、話は早いではないか。非純正品は、わずかな期間しか使えない。しかし、わずかな期間だけでも使えてしまうから購入し、家に溜まってしまう。

ここまで書いて気づいたのは、乾電池も充電ケーブルも「電気」絡みということである。僕の周囲で、電気が怪しい動きをみせている。電気に翻弄されずに生きていかなければ、いつまでも部屋は片付かないどころか、無駄な出費をこれからも重ねるハメになってしまう。それはわかっているのだが、どうすれば電気に翻弄されずに生きていけるのかまでは、まだわからない。

 

Back Number

宮崎智之1982年生まれ、東京都出身。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。2020年12月には、新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)を出版。犬が大好き。
Twitter: @miyazakid